20. 休憩

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「あー、涼しい」 バスルームのドアが開き、湯気とともに、梓のひっそりとした声が、室内に滑り込んできた。 お揃いのバスローブを羽織った梓は、額が濡れ髪で覆われていることも相まって、別人のように見える。 彼が隣に腰を下ろしてきても、どこか現実味がなかった。 「さっきからずっと同じ姿勢だな」 シャワー上がりの、彼の肌からのぼる熱気に圧され、文太は目を合わせることすらできなかった。 両手を揉みながら、手汗をどうにか蒸発させようと試みる。 そのうち、吐息で首筋を撫でられて、文太は思わず後退りした。 「わ、ちょっと……!」 「なに今更」 こちらの反応を見て、梓が笑う。 どこかリラックスしたようなその顔が可愛くて気を取られているうちに、バスローブの紐を解かれてしまった。 「なんで下着履いてんの」 「履いてちゃ悪いですか」 「冷え性?」 彼はバスローブを適当に紐で留めただけで、その襟ぐりはだらしなく開いていた。 その胸元や腹筋までが露わになり、文太はますます動揺する。 バスローブの下は、裸なのだろうか———— 「あの……まずは話をしませんか」 「話?」 「俺、いきなりこういうのはちょっと……戸惑ってて」 「テントでやる気満々だったくせに?」 「違う! いや、違くないけど、あの時とはちょっと違うんです。今は……」 「結局どっちなんだよ」 梓は笑いながら、文太の胸から脇腹にかけてを指でなぞった。 先日のような躊躇いはなく、もう今はの彼だ。 おそらく奈良や、過去の男達みんなが知っていて、文太が知らなかった顔。 それを今ここであっさりと知ってしまったことに、文太は強いショックを受けた。 「俺、しないですから」 「……完勃ちなのに?」 敏感な部分を指の腹で撫でられて、息が漏れてしまう。 梓はやはり、文太の反応を楽しむように笑いながら、下着のウエストゴムをつまんだ。 「嫌だって」 なんとかして手首を掴み、侵入を拒んだ。 ひとたび直接触られてしまったら、抗うことは不可能だっただろう。
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