20. 休憩

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「あ、だめ……、まてっ」 扱く手のスピードを速めた時、ふいに手首を掴まれた。 瞬間、先日のテントでの一幕がよぎった。 「どうしたの? 嫌?」 不安になって見上げると、梓はまた目を細めて笑った。 「違う」 それから後頭部に手を回してくると、力を込めて引き寄せ、自ら唇を重ねてきた。 彼からもらう初めてのキス。 文太はすっかりのぼせ上がり、一度鎮めたはずの熱は、再び脈打ち始めていた。 「こっちで……」 耳打ちされ、掴まれたままの手を後方に誘導される。 その意図を理解するとさすがに緊張して、指先に力が入らなくなった。 「いれていいよ。準備したから」 「じゅ、じゅんび?」 梓は笑って、文太の指先をそこにあてがった。 その上から、ローションを垂らされる。 「待って、俺よくわかってないから……せめて一度検索したい!」 「そんなことしてる間に萎えるだろ」 「でも……」 梓は文太の指を掴んで、自ら動かした。 「ほら、教えてやるから」 彼に操られる形で、躊躇っていた場所に触れる。 梓のそこは充分にほぐされているのか、柔らかかった。 入り口のまわりをほぐすようにして撫でてから、ゆっくりと挿入する。 思ったよりも深くて、ふと不安に駆られたが、梓に苦痛の表情はない。 「んっ……」 息を小刻みに震わせながら、自ら体のなかを掻き回している。 まるで文太の体を使って自慰をしているような—— やがて、指先がある地点に到達した時、彼は息を吐きながら動きを止めた。 「ここ、覚えて」 それから自分の手を離し、あとの流れを文太に委ねようとした。 「ここですか?」 いわれたところを優しく刺激すると、梓の体から力が抜けた。 「あっ、あっ」 「梓さん、きもちいいの?」 彼の悦びは、想像していたよりもはるかに高く、甘い。 いつもは通りの悪い、なにかを押し殺したような声で話すから、あまりにもギャップがあった。 前にも手をのばして刺激を加えると、彼は固く目を瞑り、苦悶にさえ近い表情を浮かべた。 それに反して体は弛緩し、身の上に起こるすべてを文太に任せたとばかりに横たわっている。 「はぁ、はっ……」 ふと見下ろした時、荒々しく上下する自分の胸が目に入った。 肩で呼吸をし、まるで一走りしてきたかのような吐息を口から吐き出している。 欲望がはち切れるのも時間の問題だった。 火鉢のなかで灰に埋もれ、大人しくしていた炭が、箸で突かれたらまた赤く燻り出すように、文太は簡単に昂った。
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