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岳と楠本、奈良、そして文太。ヒュッテ霜月の従業員は、男ばかり、たった4人だ。
大昔は女性スタッフが入っていたこともあるらしいが、ここ最近はずっと男性ばかりらしい。
その事実を知らされた時、文太は心の中でため息をついた。
間宮め、なにが「いい出会いがあるかも」だ。
スタッフが男ばかりだと事前に知らせたら、引き受けないとでも思っていたのだろうか。
もしそうだとしたら心外だ。
そりゃ、そういう期待がなかったと言ったら、多少は嘘になるけれども———
「女の子いなくてがっかりしたでしょ」
まるで心のうちを見透かしたかのように、楠本がにやける。
そんなに顔に出ていたのだろうか——文太は両頬で手を挟んで、表情筋をほぐした。
「でもまぁ、男同士だと気楽よ? 俺らなんてもう長いこと、1年の1/3は異性と切り離された生活してるからね。今さら女の子入ってきたら、それはそれで面倒かも」
楠本のたこ焼きのようにまん丸い頬を見つめながら、文太は漠然とした疑問をもった。
彼の口ぶりから察するに、文太以外のメンバーはもう長いこと固定化されているようだ。
ヒュッテ霜月の後継者である岳はともかく、まだ20代らしき風貌の奈良と楠本は、いつから小屋番として働いているのだろう。
7月から10月末にかけての営業期間中、ずっと山にいられるということは、彼らも間宮と同じフリーターで、夢追い人かなにかなのかもしれない。
「はい、じゃあ忙しくなってくる前にちゃっちゃとオリエンしてくからね。まず受付ー」
楠本は突然、声色を変えて、手を一度叩いた。
そして、小屋のあちこちを説明して回り始めたものだから、文太は慌ててメモを出して、その後を追った。
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