22. かっこ悪い言い訳

3/7
前へ
/293ページ
次へ
「サポーター取れたなら、早く梓さんに会いに行きなよー」 「うん……」 「のんびりしてたら、その志村って奴に取られちゃうよ。聞く限りだと、ブンちゃんとキャラ被ってそうだし」 痛いところをつかれたと思った。 文太自身も薄々と感じていながら、見ぬふりをしていたのだ。 「聞いてると、梓さんって尻尾振りながらまとわりついてくるタイプに弱そう。絆されちゃうというか、流されちゃうというか……」 「俺とのことも流されてるって言いたいの?」 「そうは言ってないけどさぁ〜」 しかし、それほど違いはないのだろう。 風のぶつかる音が、会話を隔てる。 冷たく肌を撫でる山のあの感触が、文太はふと懐かしくなった。 「ブンちゃんのライバルはいっぱいいるってことだよ」 強風の合間に間宮が放った一言は、文太の心をざわつかせた。 間宮に話したのは大まかな経緯だけで、詳しいことは伝えていない。 ただ彼は去年から小屋で働いているから、梓のことも、その人となりももちろん知っているはずだ。 奈良や須崎との関係だって——楠本あたりに吹聴されているかもしれない。 「でも、俺ら揃ってついてないよな。蓮が骨折、俺が捻挫で……」 「しかも俺はなぜか神無月小屋に出向させられてるし。俺らって厄年とかだっけ? なんかもう、ふたりそろってお祓いとかしたほうがいいのかなぁ?」 間宮の声が、途端に気弱になった。 彼が交代で山に上がった後、神無月小屋のスタッフに欠員が出てしまったらしく、補充要員として須崎の元に飛ばされてしまったらしい。 週末や客入り次第で、ヒュッテ霜月に出戻りすることもあるようだが、今も基本的には神無月小屋にいるようだ。 彼が連絡を寄越してくるのは、神無月小屋周辺の電波状況がいいのと、単純に人恋しさもあるのかもしれない。 「須崎さんとこ、どうなん?」 「こき使われてるよー。あの人すぐ怒鳴るし、夜は飲みに付き合わされるし。ほんと、平和な霜月に帰りたい……」 「でも、今シーズンだけなんでしょ? 来年はまた……」 「いやー、みんな来年もブンちゃんに来てほしそうだしさ。俺はもうお払い箱って感じー」 「そんなことないって! 考えすぎだよ」 後押しされていたはずなのに、最後は逆に励ます形になってしまった。 みんな口では間宮をいじるが、基本的には愛されキャラだし、須崎も須崎で、彼を気に入っているからそばに置くのだろう。 それに間宮も——いつも以上に口数が多く、覇気があるように思えた。 不満も多いようだが、それなりに充実している証だろう。 電話を切った後、文太は負傷した右足首を回して、しっかりと地面につけた。 間宮から言われた言葉のひとつひとつが、焦燥となって染み渡る。 アプリで乗り換えの時刻を調べると、駅に向かって歩き出した。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

558人が本棚に入れています
本棚に追加