23. はじめてといちばん

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「……俺には俺なりのやり方があるって言ったでしょ」 どっちみち、梓の前では格好つけられまい——半ば開き直って言い返したが、すぐに後悔した。 これではまるで、駄々をこねる子どもだ。 俯いていると、笑い声が頭頂部にぶつかってきた。 彼はふたたび頬杖をつきながら、こちらを見ている。 その目尻には愛しさのようなものが滲んでいる気がした。 「文太」 名を呼ぶ声が優しい。全身を撫でられているかのような心地よさに、つい返事をするのを忘れた。 すると梓は片手をそっとのばしてきて、文太の頬に触れた。 「お前に会いたかったよ」 視線が、まっすぐに注がれる。 痛いほどに胸が熱くなり、咄嗟に抱き寄せた。 「なんでそうやって、不意打ちで直球仕掛けてくんですか……」 「言いたくなったときに言うだけだよ」 文太は人差し指を曲げると、猫をあやすように、その目尻を撫でてやった。 切れ長のまぶたの奥に潜む瞳が、とろりと揺れる。 彼は自分の魅せ方をよく知っているし、相手をうまく誘導することにも長けていた。 その誰かがつくった道筋を辿ることに、多少の抵抗を感じながらも——体は熱くなる。 「んっ……」 まもなくして、唇が触れ合う。 舌をこじ開けて互いの熱を探り合ううちに、呼吸が乱れてきた。 「梓さん、だめだって……」 それでもなお、欲情と意地の狭間で、文太は抵抗していた。 彼に跨られ、すでにその昂りを太ももに押し付けてしまっているのに、よくも言えたものだと我ながら思う。 「しないの?」 「しない。まだ話が終わってないから……」 「そうか」 梓はいったん体を離すと、屈んだ。 パンツのホックを外され、思わず後退りする。 「今の話聞いてた?」 梓は返事をするのも億劫らしく、顔を上げなかった。 とうとう下着を剥がされ、興奮が露わになってしまう。 「してやるよ」 直に触れられると、拒絶よりも先に息が漏れた。 唇の間からのぞく舌がやたらと赤い。 「あ……」 梓の前髪が揺れる。 一重だと思っていたが、よく見ると奥二重なのだと、まぶたを伏せた時に気づいた。 そこには、長いまつ毛が隙間なく生えている。 見下ろしながら彼の表情に見惚れていると、わずかな抵抗は完全に飲み込まれてしまった。
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