23. はじめてといちばん

5/5
前へ
/293ページ
次へ
「梓さん……」 肩に手を置くが、まるで力が入らない。 やがて、彼の体の振動によって、ゆるやかに解かれてしまった。 梓を見ていたらあっという間に果ててしまいそうで、文太はベッドに背をもたれながら、天井を仰いだ。 視覚による刺激を遮断しても、合間合間に彼が漏らす吐息や湿った音がさらに際立つだけで、どうしたって追い詰められてしまう。 「待って、ちょっと……」 敏感な先端を唇で扱かれた時、文太は思わず彼の首根っこを掴んだ。 梓は止めるどころか、こちらを見上げながら、執拗にその動きを繰り返した。 「いく、いくから……っ」 焦るあまり、涙声になってしまう。 梓はそんな文太を見ながら、ひそかに興奮しているようだった。 「あ……っ」 軽く背中を叩いて引き剥がそうとするも力及ばず、ついに彼の口腔内で果ててしまう。 梓はティッシュで口を拭うと、そのまま文太の胸元に顔を埋めてきた。 「文太は可愛いな」 揶揄われたのかと思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。 文太は梓の後頭部に手を置いて、ゆっくりと撫でた。 彼の頭頂部につむじがふたつあることを、初めて知る。 「可愛さでは、一番になれてますか」 「また無意味な順位付け?」 尖らせた口先に、梓の唇が重なる。 軽いキスを交わしてから、彼は文太のうなじに手を当てて擦った。 「初めてじゃだめなの?」 「え?」 「家に呼んだのも、山下りてから会いたいって思ったのも、文太が初めてだけど」 文太は返事をしなかった。 襟足の生え際を撫でられ、その心地よさに身を委ねたまま、しがみつく。 服越しでも、彼の肌は温かかった。 「嬉しくないんだ?」 「嬉しいですよ。嬉しいですけど……」 未来——兄はきっと無意識に、梓のほとんどの初めてといちばんを奪っていったんだろう。 たぶんそれは、梓も。 嬉しさに浸ろうとすると、憶測と嫉妬までもがこびりついてくるのだった。 「初めてを誰よりもたくさん貰えるなら、それでもいいです」 梓の肩に顔をもたれて、クルーネックからわずかに出た鎖骨にキスをする。 梓はすぐ頭上で、声を出して短く笑った。 頭頂部の髪が、彼の息でふんわりと舞う。 それから本当に、猫をあやすように——梓は文太を抱きかかえた。 いつもより甘く、ほろほろとしたその声を拾いながら、気怠さを楽しむ。 文太はいっそのこと本当に、猫になりたかった。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

558人が本棚に入れています
本棚に追加