24. 冒険

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——あれ以来、梓との関係性は変わった。 メッセージを送ればごく短い返信をしてくれるようになり、会いたいといえばこうして部屋にも招いてくれる。 おそらく、文太以外に同じような関係を持つ人物もいないだろう。 彼との関係性は、こちらが望んでいた形に最も近くなったのだった。 「お腹すいた。なんか食べに行こうよ」 「出るのかったるい」 「じゃあピザでも頼みます?」 「やだ。もたれる」 体を拭いて、Tシャツを被ったころにはもう、彼はいつも通りになってしまう。 そのギャップがいいと言えば、いいのだが…… 「じゃあなに。また釜飯?」 「北海」 彼は短く返事をすると、ふたたびベッドに寝そべってしまった。 北海とは、鮭といくらが乗った釜飯のことで、彼が3回に2回は注文する品だった。 ちなみに、残りの1回は五目釜飯で、いずれも人気メニューだ。 「梓さんって、食べ物では冒険しませんよね」 おまけに出不精ときた。山にいる時とは全く違う。 文太も隣に腰掛けると、うつ伏せになっていた梓がこちらを向いた。 「じゅうぶんしてるよ」 「えー、どこが」 彼は手を伸ばすと、文太の背中から太ももを指でなぞってきた。 それから指が内腿に回ってきた時、文太は慌てて振り返った。 「ちょっと、俺は食べ物じゃないから!」 梓はにたにたと笑ってから、再びうつ伏せになってしまった。 文太はスマートフォンを開いて、宅配釜飯のメニューをタップした。 「どうしようかなー。このドリア釜飯っていうのにしてみよっかな。半分こにしない?」 「やだ。もたれそう」 彼は突っ伏したまま一蹴した。 「もたれるもたれるって、どんだけ胃弱なの?」 「おかげ様で、最近くどいのが続いてるからな」 くどいという表現が自分を指しているのだということに、寄越してきた視線で気づく。 揶揄われてるのはわかっていたが、それでも少し傷ついて、文太は彼に背を向けて座り直した。 「どうせくどいですよ、俺は」 「くどいのが悪いとは言ってないだろ」 否定はしてくれない。 文太は両手を揉みながらしばし考えた。 なにがくどいというのだろう。態度? 性格? もしかしてセックスのことだろうか。
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