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中部地方のA県とB県の県境にまたがる山脈・東アルプスは、山岳観光地として人気が高い山域で、年間で100万人以上もの登山者が入山する。
しかしその大半は、シンボリックな山々が多くアクセスしやすい南部エリアに集中しており、ハイシーズンになると、登山道が大渋滞することも珍しくない。
かたや、北部の端っこに位置するこのエリアは実にのんびりとしたものだ。
ヒュッテ霜月へは、最寄りの宇田川登山口から徒歩で約8時間。
アプローチの長さもさることながら、登山口までのアクセスも極めてわるい。
ハイシーズンでもバス便は1日たったの3便、さらにバス停に降りて登山口に辿り着くまでに、車道を50分も歩かねばならないのだから、盛況しようがない。
周辺には一応、折ヶ岳や蜜ヶ岳という「中部・花の二百名山」に選定されている山があるが、著名人が選定した日本の名山百選などが並ぶ南部に比べると、どうしたって地味さは否めなかった。
南部から稜線をつないで北部へと縦走をしてくる登山者もいるにはいるが、よほどの健脚者でも4泊5日は必要なため、そう多くはない。
だから、花の最盛期や盆以外でヒュッテ霜月に訪れるのは、東アルプス全山制覇を目指している猛者か、静けさを味わいに小屋に訪れる常連客ぐらいなのである。
しかし、客入りに関わらず、従業員が4人しかいない小さな小屋だから仕事は山積みで、常に多忙を極める。
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