3. 星降る夜に

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「お前らちょっとうるさいよ。廊下に声響いてんぞ」 すると突然、襖が開いて、岳が入ってきた。 支配人である彼は、文太たちが上がった後に小屋の点検をしているから、いつも1時間ほど遅れて従業員部屋にやってくるのだった。 「はい、琉弥と陽紀はもう少し声のボリュームを落とすこと」 穏やかな性格で、こうして注意をするときも決して声を荒げない。 そして両手には、缶ビールを抱えていた。 「ほら、差し入れ」 口に手を当てて、慌てたような顔をしていたふたりの表情が、ほろりと綻ぶ。 岳は畳に手持ちのビールをすべて置くと、その中からふた缶引き抜いて、文太に差し出してきた。 飲めということだろうか。 「あ、俺まだ……」 手持ちの、まだ半分残っているビールを振って見せると、岳は入り口のほうをそっと差した。 「違う違う。これ、アズに持っていってあげて」 「え?」 「ここに呼んだんだけど来ないからさ。頼むな」 物腰は柔らかいが、有無を言わせない感じだ。 彼から頼まれる時、たまにこうして眼鏡の奥から圧を感じることがあった。 「梓さんとこなら、俺持ってくよ?」 奈良が横から口を挟むが、岳は笑みを浮かべたまま、微動だにしない。 「俺はブンに頼んでるんだよ」 それっきり、奈良はなにも言わなかった。 長い付き合いであるはずの奈良と楠本も、岳の言葉には大人しく従う。 関係性は対等でありながらも、リスペクトはあるらしかった。 「じゃあ行ってきますね」 「よろしく。正面玄関じゃなくて、厨房の裏口から出てね」 文太はダウンジャケットのジッパーを顎下まで上げると、ビールの缶を手に取った。 常温でも充分に冷たい。ダウンジャケットの左右のポケットにひと缶ずつ収めると、部屋を出た。
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