3. 星降る夜に

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✳︎ 梓のテントは、大人が3人ほど横になれる程度の居住空間があった。 長期滞在するには、ソロテントでは窮屈なのだろう。 バックパックやクッカー類などはすべて前室に置いてあり、寝室スペースにはマットとシュラフ、LEDランタンがひとつあるだけだった。 コーヒー飲んでけば。 梓からそう誘われた時は驚いた。 何せ、先ほどまで無視されていたぐらいだ。多少言葉を交わしたぐらいで、まさかテントの中に招かれるとは思っていなかったのだ。 「お邪魔します」 室内に腰を下ろした途端、緊張が押し寄せてきた。 湯を沸かす梓の背中を見つめていると、ますます落ち着かない。 だから背後に手をついて、寝床の横に無造作に置かれた文庫本に視線を落としたり、小さなガスストーブから吹き出す炎の音、湯がふつふつと煮える音、フライシートを叩く山風に耳を澄ませたりしていた。 「砂糖とミルクは?」 「あ、だいじょぶです。ブラックで……」 半身を前室に投げ出していた梓が、マグカップを持って室内に入ってくると、やはり緊張した。 「ありがとうございます」 文太は軽くお礼を言ってから、勧められるがままにコーヒーを一口飲んだ。 チタン製のマグカップはざらりと粘膜に張り付き、口当たりが慣れない。 それに、向き合ってからというもの、絶えず彼からの視線を感じている。 カップの底を見つめたままでいるのも限界で、文太は思い切って顔を上げた。 梓はやはり、こちらを見ていた。 「ほんとに未来を見てるみたいだな」 ふたたび兄の名前を口にした時の彼の目は、ランタンの影響を受けて、温かく光っていた。 「最近、似てきたねってよく言われます」 梓は湯を沸かしていた1人用の鍋に自分の分のコーヒーをいれていたが、揺らすばかりで口をつけようとしない。 じっとこちらを見つめていたかと思えば、時折、耐えられなくなったかのように目を伏せる——そんな動作を繰り返している。 光の加減で、その長いまつ毛が少し濡れているように見え、文太は反射的に俯いた。
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