3. 星降る夜に

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「無謀だったなと、自分でも反省してます。でも来てみるといいですよね。みんなが山にのめり込む理由が、なんとなくわかる気がする」 毎日、くたくたになるまで体を動かし、夜の到来とともに眠る生活。 仕事が忙しくても、時間に追われるような感覚はなく、スマートフォンを気にすることもない。 山には山の、独自の時間軸があるようで——文太はそれを気に入りつつあった。 「意外と向いてるのかもしれません。山での生活に」 梓はコーヒーの入った小鍋を前室に置くと、膝を抱えて座り直した。 テントに軽く寄りかかり、半分微睡んだような目で、文太を捉えている。 この男は、いったいいくつ視線をもっているのだろうか。 瞼の開き具合や強さ、光の加減でまったく別のものに見える。 そして今のそれには、変わらず穏やかさは保たれているが——先程までは感じられなかった圧が、はっきりと存在していた。 「のめり込むなよ」 「え?」 「お前は山にのまれるな」 言い放つと、梓はふたたび前室に下半身を投げ出した。どうやら、靴を履いているようだ。 「どこ行くんですか」 「トイレ。文太もそろそろ戻れ。明日早いだろ」 一度、テントを大きく揺らしてから、梓は外へと出て行ってしまった。 お前は山にのまれるな。 静かに、しかしはっきりと口にした。 彼が文太をテントに呼んだ1番の理由は、これが言いたかったからなのかもしれない。
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