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「夏休みの間、ヒュッテ霜月で働いてみない?」
中学以来の友人、間宮蓮から半年ぶりにもらった連絡がそれだった。
思えばこの間宮という男は、昔からおっとりしているように見せかけて、我が道をいくタイプだった。
高校を卒業後は「映画監督になりたい」と言って映像系の専門学校に進学したが、わずか2カ月で退学。その後、すぐに思い立って山小屋で長期バイトを始めたのが昨年のこと。
彼は秋になるとようやく山から下りてきて、冬から春にかけては適当にアルバイトをしながら、短編映画の制作や配信などをしていた。
文太も一度、動画配信サイトでその作品とやらを観たことがある。
それはミニチュアのセットや人形といった、お手製の小道具を使いながら撮影されたショートフィルムで、人形劇というひと言で片付けられないほど、シナリオもカメラワークも本格的だった。
事実、彼の作品にはすでにけっこうな数の固定ファンがいるらしい。
そんな間宮の生活サイクルは、今年も同じように回るはずだったという。
撮影のセットとやらをしている最中、倒れてきた脚立に右足を打ちつけて親指にヒビが入るまでは———
なんとも運の悪いことに、それは彼が山小屋入りする3日前の出来事だった。
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