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——途中の登山道で座り込んでいる男性がいたという報告があったのは、受付業務がひと段落し、夕食の支度で慌ただしい時間帯だった。
なんでも、予定より少し遅れて到着した宿泊者の女性が、途中の稜線で出会したらしい。
その男性は70代ぐらいで、南方から縦走してきたらしく、今日はヒュッテ霜月よりもさらに先にある、神無月小屋に予約を入れているのだという。
女性が声をかけると、バテてしまったからしばらく休んでいくと、返事をしたらしい。
神無月小屋はヒュッテ霜月、如月避難小屋のさらに北に位置する小屋だ。その男性のいた地点から歩くとなると、2時間以上はかかる。
もうそろそろ日が落ちる頃だし、その男性がもしまだ吹きさらしの稜線にいるとしたら、徐々に体力を奪われて行動不能に陥ることは必至だった。
報告を受けた以上、放っておくことはできないが、あいにくこの日は予約が多く、従業員は多忙を極めていた。
そこで、様子を見に行ってくれたのが梓だった。
彼は、地図で場所を確認すると、バックパックを背負ってひとりで出かけていった。
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