4. ゆれる明かり

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文太の立てた音は、どうやら風がもみ消してしまったらしい。 梓はこちらの存在に気づいていなかった。 「はっ……はぁっ」 仰向けになった彼の体に重なっているのは間違いなく奈良で、光の正体は、彼が首にかけたヘッドライトが動きに合わせて衣服に潜り込んだり、テントを照らしたりするためだった。 「梓さん、もういきそう?」 奈良が梓に問いかけている。 ふだん悪態ばかりついている彼からは、想像もつかないぐらいに高く、掠れた声だった。 「んっ、ん……っ」 梓は息を漏らすばかりで、否定も肯定もしない。 ふたりが服を身につけたまま、互いの下半身を刺激しあっていることはわかった。 「俺、もういきそう……梓さんは?」 「は、ぁっ」 「あー、いく……、キスしてい?」 一応、伺ってはいるが、奈良は返事を待つこともなく、梓の唇にかぶりついた。 キスを繰り返すうちに、ふたりとも達したらしい。手元の動きを止めたまま、互いの唇の合間から荒々しい吐息が漏れた。 梓は、起き上がろうと身を捻ってみせるが、奈良は離れがたいようで、それを阻止するように唇にしつこく吸い付いている。 「体、拭きたいんだけど」 梓が痺れを切らして口にしても、奈良はやめない。 梓は、彼からもたらされるキスの雨に打たれながら、抵抗するのも面倒だとばかりに、ただ横たわっていた。 「ねぇ、梓さんからもキスしてよ」 「なんで?」 「してほしいからだよ」 甘えるような奈良の声。 固まったままでいた文太も、さすがにこれ以上、この場にいるわけにはいかないという危機感を抱いた。 奈良のことだから、情事を見られたことよりも、この媚びた声を他人に聞かれることを、なによりも嫌がるだろうと思った。 しかし、体を起こした際に足の関節が鳴り、慌ててしまったのが運の尽きだった。 さらに、背後に置いてあった鍋や食器類に気づかず後退し、派手な音を立てて倒してしまう。 ふたりと目が合った時は、目撃した時以上に、頭が真っ白になった。
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