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奈良の態度は、予想外にも変わることはなかった。
いつものように楠本や文太をいじり、梓と出くわせば、ごく普通に会話をする。
あれを目撃していなければ、まさかふたりがあんな関係だとは気づかなかっただろう。
——そして目撃してから、文太はひとつ気づいたことがあった。
それは、奈良がたびたび消灯後に抜け出しているということだ。
一度みんなと布団に入り、周囲が寝静まった後、音を立てないように起き上がると、そっと部屋を出ていくのだ。
行き先はもちろん、梓のテントである。
一連の動作は熟練していて、おそらく文太が気づく前から、たびたび繰り返されているのだろうことはわかった。
ふたりの密会は、連日の時もあれば、2日置きの時もあった。
しかし、それについて、文太がとやかく言うつもりもなかったし、ましてや権利があるわけでもない。好き合っている者同士なら、むしろ当然なのだ————
奈良が部屋を抜け出すたび、わけのわからないもやつきにまぶたを震わせながら、文太は自身に言い聞かせていたのである。
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