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「ちょっと待って。どうしてそういう発想になるんですか!?」
「だってお前、あの時からずっとふて腐れてんじゃん」
「ふて腐れてなんか——」
そんな理由が、どこにあるというのだろう。ふたりが合意して同衾することの、何に———
「とにかく、これからはお前がテントに飯持ってけ。俺はもういいから」
奈良は頭をかきながら、一点を見つめている。
そして、文太に向けてというよりは、まるでうわ言のように吐き出した。
「これ以上続けたら、ほんとに……いよいよやばいし……」
「好きになっちゃいそうってことですか?」
それに対して、奈良は明確な返事をしなかった。
「あーもう決めた。結婚するわ、俺」
「え?」
「今のがいいキッカケになった。迷いが晴れた!」
ありがとな!
なぜか礼を言いながら文太の肩を二度、強く叩くと、奈良は歩いていってしまった。
彼の背中には心なしか、責任感じみたものが新たに浮き出ているような気がした。
奈良が去ってもなお、彼の発した一言がどうも引っかかっていた。
梓の相手は俺だけじゃない————
そしてなにより、奈良が文太以上に文太の心の深部を読み取っていたことに、驚く。
麻痺や気の迷いなどではない、現実味を帯びたたしかな感情が、じわじわと差し迫ってきていた。
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