5. 稜線での対峙

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「ちょっと待って。どうしてそういう発想になるんですか!?」 「だってお前、あの時からずっとふて腐れてんじゃん」 「ふて腐れてなんか——」 そんな理由が、どこにあるというのだろう。ふたりが合意して同衾することの、何に——— 「とにかく、これからはお前がテントに飯持ってけ。俺はもういいから」 奈良は頭をかきながら、一点を見つめている。 そして、文太に向けてというよりは、まるでうわ言のように吐き出した。 「これ以上続けたら、ほんとに……いよいよやばいし……」 「好きになっちゃいそうってことですか?」 それに対して、奈良は明確な返事をしなかった。 「あーもう決めた。結婚するわ、俺」 「え?」 「今のがいいキッカケになった。迷いが晴れた!」 ありがとな! なぜか礼を言いながら文太の肩を二度、強く叩くと、奈良は歩いていってしまった。 彼の背中には心なしか、責任感じみたものが新たに浮き出ているような気がした。 奈良が去ってもなお、彼の発した一言がどうも引っかかっていた。 梓の相手は俺だけじゃない———— そしてなにより、奈良が文太以上に文太の心の深部を読み取っていたことに、驚く。 麻痺や気の迷いなどではない、現実味を帯びたたしかな感情が、じわじわと差し迫ってきていた。
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