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「陽紀さんから見て、梓さんってどうですか」
「どうって、別に……」
「綺麗って言ってたじゃないですか」
楠本は隣に並ぶと、たらいから皿を抜き取り、布巾で水滴を拭き取っていった。
手を止めて反応を伺っていると、彼から肘を小突かれて作業を催促された。
「そりゃまあ、引っかかったらやばそうだなって、警戒してはいるよ」
「警戒ですか?」
「だって綺麗じゃん。顔のつくりがどうこうっていうよりも雰囲気があるよね。体でかいし、筋肉もあるんだけど、どこか儚げというか。なんか不思議な感じなんだよな」
「あ、なんとなくわかります。儚さと筋肉量って関係ないんだなって、俺も梓さんに会って思いました」
なんだよそれー!
楠本は笑いながら素早く手を動かし、皿を次々と重ねていった。
「まあでも、幸い俺はお声がかからないからな」
「お声?」
「梓さんに気に入られると、テントに誘われるらしいよ。コーヒー飲んでけばって。そんで、テント入ったら終わり。一瞬で食われるって」
文太はスポンジを滑らせていた皿を落としてしまった。
幸いにも、それらはたらいの水の中に沈んだだけで、割れもせず、派手な音も立たなかった。
こちらがノロノロと皿を洗っている間に、楠本はすべて拭き終えてしまったらしい。シンクに両手をつきながら、文太の微かな動揺を観察し、にやついている。
「俺、テント誘われました」
「知ってるよ。歓迎会の時に梓さんとこ行ったまま、しばらく帰ってこなかったじゃん」
彼の目が、好奇できらきらと光る。明らかに下世話な暴露を期待しているようだった。
どうやら彼は、文太と梓にすでに肉体関係があるのではと疑っているらしい。
「ナニしてたの、テントで」
「コーヒーをご馳走になりました」
しばらくの間をあけて、楠本は眉を顰めた。
「で?」
「でって、それだけです。少し話はしましたけど」
楠本は布巾を作業台に放ると、つまらなさそうにため息を吐いた。
「つまんない。テントの中で別のテント張ってました、ぐらい言えないのかよー」
——絶対言うと思った。そして彼はたぶん、それが言いたかっただけだろう。
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