7. 追憶の旅

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文太が黙り込んでいると、梓はシュラフの上に横になった。 疲れているのか、目が潤んでいる。 「……やっぱりお前、未来に全然似てないわ」 思いついたように梓は言った。彼の声は高く、かすれていた。 「なんですか、急に」 「未来は、他人に対してあれこれ詮索しなかったから」 「嫌な気持ちにさせたならすみません」 梓は、笑いながら伸びをした。 その拍子に、ダウンジャケットの裾から脇腹が見え、そちらに釘付けになってしまう。 文太は、梓が心地よさそうに目を閉じている間に、なんとか顔を逸らした。 「すぐ謝ったり、顔色伺うとこも似てない」 「……兄があんなんだから、弟の俺は自然とこんな性格になっちゃったんですよ」 兄は幼い頃から無鉄砲だった。 冒険染みたものに興味を持っては次々と実践していたから、生傷が絶えなかったらしい。 中学に上がると、無謀な計画を立ててキャンプやら登山にひとりで行ってしまうこともあり、常に両親を心配させていた。 そんな兄を見ていた文太はどうか。 空気を読むことに長け、兄の失敗は絶対にするものかと学習するあまり——幼少期から、母親と菓子ばかり焼いて過ごしていたのであった。 「たしかに未来は我が道をいくタイプだったな。集団行動がだめで、謝るのも苦手だから、ワンゲルの部員ともよく衝突してた」 「なんか想像できます、その光景」 「でも不思議と俺とは気が合って、いつのまにかふたりで山行くようになってた。部活のほうは幽霊部員だったのにな」 懐かしそうに目を細める。目線の先はどこをとらえているかわからない。 先ほどまで文太に重ねていた未来の面影はもう、こちらではないどこかに映されているらしい。 兄と重ねられると、それはそれで窮屈なのに、梓の視界から完全に見切れてしまうと、ただ漠然と寂しかった。
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