8. 第二の男

3/8
前へ
/293ページ
次へ
✳︎ なんか嫌な感じだな。 それが、神無月小屋の支配人である須崎匠に抱いた第一印象だった。 文太よりもやや小柄だが、よく日に焼けていて、腕にはやはり、自信の塊かのような筋肉がまとわりついていた。 それは腕に限らず、前腿やふくらはぎも同様で、薄手のトレッキングパンツ越しからでもよくわかった。 「わざわざご苦労様」 彼は一応、労いのような言葉をかけながらも、視線では文太の白さや細長いだけの手足を嘲弄していた。 「今年は蓮の代理で来たんだって?」 視線に気を取られるあまり、一瞬、誰のことを言っているのかわからなかった。 「あ、はい。友達で……」 「相変わらず間が悪いよなー、レンコンは。またこっちでもコキ使ってやろうと思ったのに」 ヒュッテ霜月のスタッフは皆、間宮のことを名字で呼んでいる。 唯一、親しげな楠本だけはまみやんと呼ぶが、下の名で呼ぶ者は誰もいない。 違う小屋の人間なのに唯一の名前呼びなのは、よほど間宮と親しいか、この男が単に馴れ馴れしい性分なのか、そのどちらかなのだろう。 まあ後者の場合でも、自分には適用されないようだが———— 「アズ、軟弱になったんじゃねーの」 梓は食堂のテーブルに肘をついて窓の外を見ていたが、須崎に話しかけられるとこちらを向いた。 「なにが」 「せっかく岳にひとりで運べるぐらいの量を伝えてやったのにさー。2人で来るならもっと頼めばよかった」 「2人で来たのは岳の指示だよ」 「相変わらず空気読めねーなー、あのメガネ君は」 須崎は文太に背を向け、梓に向かい合う形で座った。 文太は、もはやすでにこの状況を持て余していたが、とりあえず手前のテーブルの椅子を引き、腰掛けた。 須崎は椅子をガタガタ揺らしながら、前のめりになったり、背もたれに寄りかかったりと落ち着かない。 椅子の脚が床に擦れる音が、なんとも不愉快だった。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

557人が本棚に入れています
本棚に追加