8. 第二の男

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「早くすませろよ」 梓の、くぐもったような声。今の甘えた口調に絆されたのだろうか—— それから、唇を啄む音が脈拍ぐらいのリズムで響き、次第に息が混じっていく。 「処理みたいに言われると、傷つくんだけど」 そう発した須崎の声は、興奮で上擦っていた。 「ん……っ」 押し倒されている梓の姿は完全に隠れてしまい、慌ただしくフリースジャケットを脱ぎ捨てた須崎の、筋肉のついた背中だけが見える。 須崎はTシャツ一枚になると、ひとつ大きな呼吸をして、それから上半身を前に倒した。 もはや2人の姿は見えなくなり、時折、上下する須崎の頭がラックの隙間から見え隠れするのみとなった。 「あっ、あぁ……」 なにをしているんだろう。 啄むような音と湿っぽい音、はっはと混ざり合う呼吸の生温かさが、ふたりの間から上がってくる。 時折聞こえる甘い声は、梓のものとは思えなかった。 「あ……」 やがてふたたび体を起こした須崎が、梓の足を抱えあげた。 梓の膝頭は、想像していたよりもだいぶ白い。 「やめろ」 梓の、意思をもった声。 須崎はなんとかやり過ごそうと、梓の足を撫でながら反応を伺っている。 「アズん中、はいりたい」 「山にいる時は、いれない約束だろ」 「じゃあ、今年は下でも会ってくれんの?」 須崎は続きを待っていたようだが、梓がだんまりを決め込んでいると、抱えていた脚を下ろした。 「アズさ、いつ山下りんの」 「まだ決めてない」 「俺の休みに合わせて一緒に下山しよ」 な? 約束な。 梓がまだ答えないうちに念押しをすると、前後に腰を揺すり始めた。 「んっ、あ……っ!」 梓は否定も肯定もしないまま、ふたたび小さな叫びをあげ始めた。 須崎が動くたび、肌のぶつかる音が響き、湿った空気が充満していく。 「はぁ、あ、あっ」 ふたりは今、なにをしているんだろう。 上半身の動きだけだと、先ほどの須崎の要望を、梓が受け入れたかのように見える。 「ん、ふ……っ」 「アズ—————」 須崎に組み敷かれ、揺さぶれながら高い声を出す梓。 血がふつふつと巡り、不快感が身体中を這う。 「あ、いく……っ」 文太は扉をそっと閉めた。 それから、下半身に集まるいやな熱をどうにかして逃そうと外に出る。 日差しの強さと風の冷たさ、その両方を受け止めながら、ガレ場をゆっくりと歩く。 怒りなのか、それとも興奮なのか。 言い表せない、でもたしかに脈打つなにかの正体が——文太にはまだわからなかった。
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