10. 誰でもいいなら

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「梓さん、よかったら一緒に行きませんか?」 今日の本当の目的を言い切ってしまうと、緊張を緩めるために長く息を吐いた。 その短い間で、首から上に血がめぐり、耳たぶあたりでどくどくと脈打つ。 朝から何度もシミュレーションしていたはずなのに、出だしが怯んでしまったのが悔やまれた。 「うん」 梓はあっさりと肯定した。 あまりにあっけなくて、それを素直に受け取ることができない。 「うんって何ですか?」 「うんはうんだろ」 「行くってこと!?」 「それ以外になにがあんの」 ようやく肯定を受け止めた時、締めていた唇が無意識に開き、笑みに変わった。 休みの日に、梓と丸一日一緒にいられる。 それが改めて特別なことのように思えた。 にやけているのをまじまじと見つめられて恥ずかしかったが、もう誤魔化しようもない。 文太はあぐらをかいた足をゆらゆらと船のように揺らして、喜びをあらわにした。 「えへへ」 「なんだよ、その笑い方」 「嬉しさと照れがごっちゃになって」 梓はこちら向きに側臥位になると、とろりとこぼれ落ちそうな視線を寄越した。 寒さのせいだろうが、頬は火照り、瞳はランタンの光を蓄え、潤んでいる。 「梓さん、眠いんですか」 「ん、ちょっと」 微睡む梓は、まるで炎に炙られて身を蕩かすろうそくのようだ。 文太は彼から目を逸らし、テントのカーブに細長く映り込んでいる自身の影を見つめた。
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