10. 誰でもいいなら

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✳︎ 「あのふたりって、何だと思います?」 「何って、なにがだよ」 湯切りをする楠本の表情はよく見えないが、その視線はどんぶりを持つ手元に向けられている。 文太はさして関心のなさそうな彼の腕を小突いて、前のテーブルに座る二人組のほうに視線を投げた。 「今、ラーメン注文したあのふたりの関係ですよ」 楠本は、どんぶりに麺を移し、箸でほぐしながら、ようやく顔を上げた。 ——1時間ほど前に受付をした男性二人組で、歳は20代後半から30代前半ぐらいだろうか。 小屋泊まりではなく、はるばるテントを担いでやってきたらしい。 片方はよく日に焼け、山慣れした雰囲気であるのに対し、もう片方は初心者のようだ。 最新のアウトドアウェアを着て立つ姿はカタログモデルのような作り物感があったし、先ほども小屋の中を物珍しそうに見回していたから、勝手ながらそう判断した。 テント泊だし、恐らく自炊用の食材は携行しているのだろうが、今、わざわざ食堂で食事をしているのも——おそらくはモデル風のほうに強請られて、もう片方が仕方なく応じてやっているに違いない。 楠本としばらく会話に耳を傾けていると、ふたりはどうやら職場の同僚らしいことがわかった。 スポーツマン風のほうがユカワくん、カタログモデル風のほうはセトウチさんという名前のようだ。 ユカワくんはセトウチさんに対して敬語混じりで話しているから、彼のほうが後輩にあたるらしいことも推測できた。 「……別に普通の友達じゃないの?」 「そうかなぁ」 「じゃあ逆に、なんだと思うわけ?」 文太は黙って、ふたりの足元に目をやった。 会話そのものは至って普通なのだが、向き合って座る2人の、互いの膝下がぴったりとくっついている。
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