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「友達だったら、あんなにぴったり脚くっつけるかなぁ」
「ふたりとも長いからぶつかっちゃうんじゃない?」
楠本は気にせず、どんぶりを持ち上げてふたりの元へと運んでいった。
戻ってくると、カウンターに手をついてしばし時間を持て余し、やがて文太のほうを向いた。
「それにあのふたり、テント1張しか持ってきてないんですよ。さっき設営してんの見たけど」
楠本は、まだその話をしているのかと言わんばかりに口をぽっかり開けて、一瞬、天井を見上げた。
「いや、普通に軽量化のためでしょ。それぞれソロテント持ってくるより合理的じゃん」
「そうかなぁ……」
「ブンちゃん、そっちのほう意識しすぎなんじゃないの。いくら自分が梓さんのこと好きだからってさー」
梓の名前が出た時、肩が強張るのが自分でもわかった。
間抜けな声が出そうになるのをなんとか押し込めると、文太はカウンターに前屈みになった。
「なに言うんですかいきなり」
「だって毎日テントに通ってんじゃん。もうさ、その間、琉弥があからさまに動揺してて、めちゃ面白いんだよね。梓さん、琉弥からブンちゃんに乗り換えたんだ?」
「え! え……?」
さらりと出た奈良の名前に狼狽えてしまう。
彼はどうやら奈良と梓の関係にも、とうに気づいていたらしい。
「梓さんって、そんなにエッチうまいの?」
「いやいや、やってないですから」
「嘘だー。何かしらはやってるっしょ」
「やってません!」
楠本がにやつきながら片手で下品なゼスチャーを加えるものだから、つい声が大きくなってしまった。
文太がカウンターから離れると、今度は楠本のほうからまとわりついてきた。
彼の目は好奇に満ちて輝いている。こういう時は大抵、なんらかの情報を絞り出すまでは解放してくれない。
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