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「技術的にお前には無理だよ。それに泊まりだし、2日は仕事休めないだろ」
梓がため息を吐いたとき、笑ったのがいけなかった。
それはまるでごねた子どもでも相手にするような——対等な者に向ける笑みではなかった。
「あの人がいるから、俺は邪魔ってことですか」
正気が、慌てて羽交い締めにしてくるが、一度暴走した感情はもう抑え込むことができない。
掴まれた瞬間に砕け散り、飛沫となって梓に向かう。
そしてその一歩後を、後悔がついてきたが、次の飛沫に飲まれてしまい、制御には至らなかった。
「俺がいると、須崎さんとセックスできないから?」
「なに言ってんだ、お前」
「この前も、神無月小屋の従業員部屋でやってましたよね。声響いてましたよ」
その表情が一瞬、羞恥で歪む。
彼がこのまま困惑を引きずったままでいたら、文太は我に返って謝っていただろう。
しかし不運にも、梓は文太を正気に戻してはくれなかった。
彼はいつもの冷たい表情に戻ると、まるで開き直ったように腕組みをした。
「だとしたら何。お前に関係あるの?」
部外者のくせに。
改めて突きつけられ、屈辱感だけが浮き彫りになる。
関係ない。
関係ないなら、いっそのこと————
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