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楽しみにしていた休日は、途端にもて余すこととなった。
従業員部屋で二度寝を試みたものの、忙しないスタッフの雑音で罪の意識にとらわれてしまい、1時間ともたなかった。
小屋のなかで過ごすのも憚られて、ぐずぐずと周辺をうろついた後——当初予定していたこよみ池に向かって歩き出したのは、結局、昼近くになってからだ。
すでに昼食は済ませたし、これから行って周回してきても、夕食前までには帰ってこられる。
文太は、散歩に行くような感覚で、ポケッタブルの小さなサブザックに水筒とガイドブック、それに撮影用のスマートフォンのみを入れて出発した。
——朝方にうだうだしていた理由はただひとつ。梓と須崎に鉢合わせたくない、それだけだった。
あのふたりがどこで待ち合わせて、どの山へ向かうのかは知らないが、朝方に北側へ歩いていけば、少なくとも須崎と出会う可能性は大いにあった。
しかし、さすがにもう昼だから、ふたりはもうどこかの稜線、もしくは頂上へと辿り着いているだろう。
朝方は晴れていたのに、今はもうガスが周辺を取り囲んでいる。
冷たく湿った風が荒々しい岩肌を隠し、頬や髪をしっとりと撫でていく。昨日から滞留している後悔の重みが、湿気を含んで増していった。
文太は、梓に向かって口にしたことを思い返すだけで、どうにかなりそうだった。
ガスに巻かれて、このまま消えてしまえたらいいとすら思う。
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