11. あざ笑う木立

2/5

557人が本棚に入れています
本棚に追加
/293ページ
楽しみにしていた休日は、途端にもて余すこととなった。 従業員部屋で二度寝を試みたものの、忙しないスタッフの雑音で罪の意識にとらわれてしまい、1時間ともたなかった。 小屋のなかで過ごすのも憚られて、ぐずぐずと周辺をうろついた後——当初予定していたこよみ池に向かって歩き出したのは、結局、昼近くになってからだ。 すでに昼食は済ませたし、これから行って周回してきても、夕食前までには帰ってこられる。 文太は、散歩に行くような感覚で、ポケッタブルの小さなサブザックに水筒とガイドブック、それに撮影用のスマートフォンのみを入れて出発した。 ——朝方にうだうだしていた理由はただひとつ。梓と須崎に鉢合わせたくない、それだけだった。 あのふたりがどこで待ち合わせて、どの山へ向かうのかは知らないが、朝方に北側へ歩いていけば、少なくとも須崎と出会う可能性は大いにあった。 しかし、さすがにもう昼だから、ふたりはもうどこかの稜線、もしくは頂上へと辿り着いているだろう。 朝方は晴れていたのに、今はもうガスが周辺を取り囲んでいる。 冷たく湿った風が荒々しい岩肌を隠し、頬や髪をしっとりと撫でていく。昨日から滞留している後悔の重みが、湿気を含んで増していった。 文太は、梓に向かって口にしたことを思い返すだけで、どうにかなりそうだった。 ガスに巻かれて、このまま消えてしまえたらいいとすら思う。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

557人が本棚に入れています
本棚に追加