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一方――
立ち込める硝煙と血の匂いが、鼻腔を鋭く刺激する。
じわりと衣を濡らす鮮血に構うことなく、雨京はその場に膝をついたまま見上げた。――雨京に向けて拳銃を構え、荒い息をついている、その青年を。
「なぜ……私を狙う」
「……っ、せ、んせい……、先生……すみません、本当に、すみません……!」
拳銃を持つ手をがたがたと震わせながら。
そこに立っていたのは、片目を布で覆った青年。
――阿曇諒。
かつて、雨京が命を助けた相手だった。
「謝罪、ではない」
ひたひたと、足元に血が滴る音が聞こえた。
額に汗が滲む。激痛を逃がし、平静を保つために息を吐いてから、雨京は言葉を続けた。
「訊きたいのは……私を撃った、その理由だけだ」
妙だ、と思っていた。
阿曇諒はかつて、狙撃手として軍に所属していたと聞いている。
この距離ならば、いくら片目を失ったからと言って、急所を狙い撃って雨京を殺すのは難しいことではなかったはずだ。……彼が、本気で雨京に対して殺意を抱いていたのであれば。
なのに今、雨京は生きている。
諒が放った銃弾は大きく外れ、雨京の脇腹を撃つのみにとどまったからだ。
「……っ、俺……は」
「…………」
諒の激しい動揺は、間にわだかまる緊迫した空気を通じて、雨京にも伝わってくるほどだった。
「誰かに、脅されたのか」
「…………!」
一つの可能性として尋ねてみれば、諒は目に見えて大きく狼狽した。
しかし彼は目に涙を湛えたまま、なおも拳銃を下ろすことはない。
「……妻子を、殺すと。……そう言われたんです。あなたを……先生を殺さなければ、……俺の、家族は」
「人質に取られたか」
事情は、わかった。
諒にはやむにやまれぬ理由がある。
だから彼は、苦渋の思いで雨京に襲いかかった。
……けれど。
足に力を込め、ふらつきながらも雨京は立ち上がった。
脇腹の傷口がさらに開き、耐え難いほどに痛みが強まっていく。傷を押さえる手の指の間から、とめどなく血が溢れ出す。
それでも、黙って屈しようなどとは、微塵も考えに及ばなかった。
静かな気迫を漲らせ、雨京は諒を見据えて言った。
「悪いが、殺されてやるわけにはいかない。あなたと、同じだ。私にも……生きて、守らなければならない、大切な者がいる」
「……あ……、あぁ……」
「教えてくれ。あなたは、誰に脅されている? 私を消すよう、誰に命じられた?」
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