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(本当に……あの時は、恐かった)
雨京と別れて助けを求めに行った後、螢は幸いにして、すぐに警官が運転する車に出会うことができた。
彼らはすでに雨京から和正の企みについて報告を受けていたらしく、雨京の後を追うようにして車を走らせてきたのだという。
警官達を連れ、螢が雨京のもとに戻った時、彼はすでに意識を失って倒れていた。
すぐに雨京は病院に運ばれたが、その傷は深いものだった。
本来であればすぐに治療を受けなければならないほどの重傷だったにもかかわらず、彼は螢を追って車を走らせ、和正と戦うことまでしたのだ。
一命はとりとめた。
しかし雨京はそれから数日の間、目を覚ますことはなかった。
……もし、雨京が死んでしまったら。
今まで生きてきて、あれほどまでに恐ろしかった日々はない。
もう二度と、あんな思いをするのは絶対に嫌だと思う。
雨京の目覚めを待つまでの数日を思い出し、思わず俯きがちになっていると、彼はかすかに眉根を寄せて言った。
「案ずるなと、何度も言っている。にもかかわらず、お前はいつまでも心を砕く。私の言葉は信用ならないか?」
「そうではありません。先生が怪我をしたのは、わたしの父が遺した遺産のせいです。それに……先生はいつも、平気で無茶ばかりするんですから……」
それが雨京の生き方であり、在り方なのだと、頭では理解している。そんな彼だからこそ、螢は支えになりたいと願うようになったのだから。
けれど、どうしても。
少しは心配する側の身にもなってほしいと、思わずにはいられないのだ。
そんな気持ちもあって、知らず、螢の言葉は雨京を咎めるような口調になっていたのかもしれない。
雨京は驚いたように目を瞬いて、言った。
「お前は、私を叱っているのか?」
「……っ!? い、いえ! そんなつもりでは……、ええと、その、気を悪くさせてしまったなら、ごめんなさい――」
「別に気を悪くしたのではない。以前のことを考えれば、お前はずいぶん物を言うようになったのだなと、少し感心していただけだ」
「…………」
どうしようもないほど恥ずかしくて、居たたまれなくて、仕方ない。真っ赤になった顔を隠すようにして、螢はその場に縮こまった。
そんな螢を、横目に見て。
花のつぼみがほころぶように、雨京がふわりと微笑んでいたことに、螢は気がつかなかった――。
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