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ルイスの後に続いて教会の中に足を踏み入れると、ふわりと優しい木の香りが全身を包んだ。
(ここが、教会)
穏やかな静寂に満ち満ちた空間が、螢の前に広がっていた。
入り口からは木造の通路が続いており、その両側には長椅子が何列も並んでいる。
一際目を引いたのは、通路の奥にある壁の上部に設えられた、十字型の採光窓だった。窓から注ぐ金色の日差しは清らかな光の筋となって、祭壇の周囲を明るく照らし出している。
(静かで、とても落ち着く場所……)
長椅子に座り、ただじっとしているだけでも、心が安らいでいくような気がする。
……けれど、意外だった。
雨京は来る日も来る日も、寸暇も惜しまず仕事に打ち込む人だ。もう雨京に引き取られて半年以上が経つというのに、螢は彼が仕事以外のことをしている姿をほとんど見たことがない。
だから、そんな忙しい日々の中、雨京が毎日欠かさず教会に通っていると聞かされて、少し驚いたのだ。
(先生がここに来るようになったのは、最近だとハンナさんが言っていたけれど……)
祭壇の近くの長椅子に座り、何とはなしに十字の窓を見上げていると、隣に腰掛けたルイスが声をかけてきた。
「雨京さんはいつも、祭壇の前で祈ってらっしゃるんです。……あの人は、僕達と姿がとてもよく似ている。だから、彼の場合は親しみもあって、つい気になってしまってね。普段はここに来る人達に何を祈っているのかなんて、訊いたりしないんですが」
ルイスによれば、雨京が最初に教会を尋ねてきたのは、半月ほど前のことだったという。
『私は信徒ではないが、ここで祈ってもいいものだろうか』
それからというもの、雨京は毎日、祈りを捧げるために教会を訪ねてきた。
光の差す祭壇の前に跪き、瞑目して手を組み合わせる姿は、何人たりとも妨げになってはならないと思わされるほどに、静謐で神々しく――
一週間ほどが経った頃、ルイスはつい、雨京が祈りを終えた頃を見計らって尋ねていた。
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