5.祈り

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 ルイスの後に続いて教会の中に足を踏み入れると、ふわりと優しい木の香りが全身を包んだ。 (ここが、教会)  穏やかな静寂に満ち満ちた空間が、螢の前に広がっていた。  入り口からは木造の通路が続いており、その両側には長椅子が何列も並んでいる。  一際目を引いたのは、通路の奥にある壁の上部に(しつら)えられた、十字型の採光窓だった。窓から注ぐ金色の日差しは清らかな光の筋となって、祭壇の周囲を明るく照らし出している。 (静かで、とても落ち着く場所……)  長椅子に座り、ただじっとしているだけでも、心が安らいでいくような気がする。  ……けれど、意外だった。  雨京は来る日も来る日も、寸暇(すんか)も惜しまず仕事に打ち込む人だ。もう雨京に引き取られて半年以上が経つというのに、螢は彼が仕事以外のことをしている姿をほとんど見たことがない。  だから、そんな忙しい日々の中、雨京が毎日欠かさず教会に通っていると聞かされて、少し驚いたのだ。 (先生がここに来るようになったのは、最近だとハンナさんが言っていたけれど……)  祭壇の近くの長椅子に座り、何とはなしに十字の窓を見上げていると、隣に腰掛けたルイスが声をかけてきた。 「雨京さんはいつも、祭壇の前で祈ってらっしゃるんです。……あの人は、僕達と姿がとてもよく似ている。だから、彼の場合は親しみもあって、つい気になってしまってね。普段はここに来る人達に何を祈っているのかなんて、訊いたりしないんですが」  ルイスによれば、雨京が最初に教会を尋ねてきたのは、半月ほど前のことだったという。 『私は信徒ではないが、ここで祈ってもいいものだろうか』  それからというもの、雨京は毎日、祈りを捧げるために教会を訪ねてきた。  光の差す祭壇の前に(ひざまず)き、瞑目(めいもく)して手を組み合わせる姿は、何人(なんぴと)たりとも(さまた)げになってはならないと思わされるほどに、静謐(せいひつ)で神々しく――  一週間ほどが経った頃、ルイスはつい、雨京が祈りを終えた頃を見計らって尋ねていた。
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