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『あなたはいつも、とても熱心に祈っていらっしゃいますね。もし差し支えなければですが、いったいどのようなことを……?』
『力の及ばないことを祈っていた。私ではもう、どうにもできないことを。情けない話だがな』
『どうにもならないこと……ですか?』
問い返せば、雨京はわずかに苦く笑う。
澄んだ白い光を湛える十字窓を見上げながら、雨京は答えた。
『――誰よりも、幸せになってほしい者がいる』
ルイスは束の間、言葉を失っていた。
それは翳りがなく、清廉で、どこまでも真っ直ぐな言葉。
だから思いがけず、胸を衝かれていたのかもしれない。
『あなたにとって、その方はとても大切な方なのですね』
ルイスが言うと、肯定を示すわずかな沈黙があった。
それから雨京は、十字窓からルイスに視線を移して言った。
『神父。少し……尋ねたいことがあるのだが、構わないだろうか』
『もちろんです。お伺いしましょう』
『目の前の人間が、深い苦しみや悲しみの中にいるとして……だが、そのつらさの根源を除いてやることはできない時。まわりにいる者は、その人間のために何ができるのだろうか』
それははっきりとした答えのない問い、とでも言うべきものだった。
ルイスは少しの間考え込んだ後に、口にした。
『ただ、黙ってそばにいることでしょうか。たとえ何があろうとも』
『…………』
『まわりの人にできることは、そう多くはないのかもしれません。その方と同じ気持ちを分かち合い、寄り添うほどのことしか。ですが、それだけでも……いえ、それこそが、相手の方にとっては大きな救いになることだってあると、僕は思っています』
『そう、だろうか』
『ええ。もしかしたら、あなたはご自分が無力だと思われているのかもしれませんが……きっと、大丈夫です。あなたの思いはいつか、その方に届くはずですよ』
……螢は何の反応も返すことができないままに、ルイスの話を聞き続けていた。
そんなわけがない、と。
そう断じることは、きっと簡単だ。
雨京が祈っていたのは、螢ではない、別の誰かのために違いない。だって螢には、そうまでして雨京に想われるだけの価値などないのだから、と。
……けれど。
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