5.祈り

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『あなたはいつも、とても熱心に祈っていらっしゃいますね。もし差し(つか)えなければですが、いったいどのようなことを……?』 『力の及ばないことを祈っていた。私ではもう、どうにもできないことを。情けない話だがな』 『どうにもならないこと……ですか?』  問い返せば、雨京はわずかに苦く笑う。  澄んだ白い光を(たた)える十字窓を見上げながら、雨京は答えた。 『――誰よりも、幸せになってほしい者がいる』  ルイスは束の間、言葉を失っていた。  それは(かげ)りがなく、清廉(せいれん)で、どこまでも真っ直ぐな言葉。  だから思いがけず、胸を()かれていたのかもしれない。 『あなたにとって、その方はとても大切な方なのですね』  ルイスが言うと、肯定(こうてい)を示すわずかな沈黙があった。  それから雨京は、十字窓からルイスに視線を移して言った。 『神父。少し……尋ねたいことがあるのだが、構わないだろうか』 『もちろんです。お伺いしましょう』 『目の前の人間が、深い苦しみや悲しみの中にいるとして……だが、そのつらさの根源を除いてやることはできない時。まわりにいる者は、その人間のために何ができるのだろうか』  それははっきりとした答えのない問い、とでも言うべきものだった。  ルイスは少しの間考え込んだ後に、口にした。 『ただ、黙ってそばにいることでしょうか。たとえ何があろうとも』 『…………』 『まわりの人にできることは、そう多くはないのかもしれません。その方と同じ気持ちを分かち合い、寄り添うほどのことしか。ですが、それだけでも……いえ、それこそが、相手の方にとっては大きな救いになることだってあると、僕は思っています』 『そう、だろうか』 『ええ。もしかしたら、あなたはご自分が無力だと思われているのかもしれませんが……きっと、大丈夫です。あなたの思いはいつか、その方に届くはずですよ』  ……螢は何の反応も返すことができないままに、ルイスの話を聞き続けていた。  そんなわけがない、と。  そう断じることは、きっと簡単だ。  雨京が祈っていたのは、螢ではない、別の誰かのために違いない。だって螢には、そうまでして雨京に想われるだけの価値などないのだから、と。  ……けれど。
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