5.祈り

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 けれどそれは、螢が教会を出てまもなくのことだった。 「ねえ、お姉ちゃんはもしかして、看護師さんなの!?」  路面電車の乗降所への道中、ひどく焦った様子で螢の前に現れたのは、三人の少年少女だった。  十歳前後の子ども達だった。このあたりに住んでいるのだろうか。皆、つぎはぎだらけのぼろの着物をまとっているのが気になった。 「助けてほしいの。母さんが、母さんが……!」  泣きじゃくりながら(うった)えてくる少女に驚いていると、まわりの二人の少年が立て続けに言った。 「母さんが怪我をしちゃったんだ。血がいっぱい出てて、どうしたらいいのかわからなくて」 「お願い、看護師さん! 母さんを助けて!」  子どもは螢の腕をぐいぐいと引っ張りながら哀願してくる。  一刻を争う事態かもしれない。幸い、このあたりは医学校からはそう遠く離れていない。応急処置をして、医者を呼びに行くくらいならば、螢でもできるかもしれない。  螢はうなずいて、急いで子どもについていった。  ……けれど。  入り組んだ細い路地を分け入ってしばらく経った頃、子ども達はいっせいに動きを止めた。 (え……?)  突如、螢を襲ったのは違和感だった。  違和感は次の瞬間、子どものうちの一人が発した言葉で、いよいよ確かなものとなる。 「連れてきたよ。この人でいいんでしょ? 早くお金をちょうだい」 「……ああ、ありがとう。よくやってくれたね、きみ達」  頭から冷や水をかけられたような心地になる。  その声は、あまりにも冷え切っているけれど、聞き覚えのある――  声の主の姿を探そうとした瞬間、どっ、と音がして、後頭部に強い衝撃が走る。  ぐらりと身体が(かし)いで、立っていられない。  螢を見下ろしてそこに(たたず)んでいた、その人物は、 「きみが悪いんだよ、螢ちゃん。――きみが、あの先生に心を奪われたりするから」 (どう、して……?)  成す術もなくその場に倒れながら。  螢は目を閉ざし、意識を失った。
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