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連鎖(1)あるOLの死
「今日は、火事で焼死した高齢女性、ペースメーカー入りの病死の中年男性、事故死した女児、墜落死した女性か」
ホワイトボードを見ながら向里が言う。
「焼死した遺体も焼くんですか?」
穂高が訊くと、大場が答えた。
「そりゃそうよ。だって、焼死した御遺体だって、お骨にはなってないじゃない」
「あ、そうか」
「でしょ?」
「でも、焼け死んでしまったのにまた焼かれるって、何か気の毒ですね」
穂高はやや俯き加減になりながらそう言った。
「それより、前にも言ったけど、ペースメーカー使用者だ。気を付けろよ。飛んで来た破片でのぞき窓のガラスが割れてケガした例もあるからな」
「はい」
穂高は向里にそう返事をして、朝礼は終わった。
その内田という墜落死した女性はまだ若いOLで、深夜に駅前の舗道上に倒れている所を通行人に発見されたそうだ。
上の駅と駅ビルの連絡通路から墜落したと思われたが、事故、自殺、他殺、ハッキリしないらしい。遺書もなく、日記などの習慣もなかったそうだ。
家族は他府県に住んでおり、駆け付けて来て、変わり果てた姿に泣き通しだ。
「親御さんは辛いわよね。まさかってね」
大場は事務室でそう溜め息をついた。
「大手の会社に勤めてたんですね。それに人望もあったんでしょうね。たくさん電報も届いてたし、上司も来ていましたよ」
届いた弔電をまとめて遺族の所に届けて来た川口がそう言う。確かに、誰もが大手企業として知る会社に勤めていた。
「まだ若いのに、気の毒に」
穂高は言って、向里と火葬炉の方へ行くために事務室を出た。
葬儀場が並ぶ廊下の隅で、上司が電話をしていた。
「もうすぐ葬儀が始まるよ。全く。忙しいのに内田も手間をかけさせてくれる。無能が。
ああ、それで内田が担当していた分、大丈夫か。期限は今日の正午だぞ。いいか、何としても間に合わせろ。いいな。お前でもそのくらいはできるだろ。役に立ってみせろ」
そう言って電話を切ると、ポケットに携帯を入れ、踵を返して葬儀場へと向かう。
それを見送った穂高は、
「嫌なものを見てしまいましたね」
と眉をひそめた。
火葬炉に棺を入れ、ロックの音が響き渡る。そして、点火された。
向里に続いて穂高がのぞき窓から中を見た。棺をまず一気に燃やし、それから遺体を焼く方式を取っている。
内臓から血液が吹き出したあと、やせ型の遺体は起き上がり、ゆらゆらと体を揺らし、振り返るような動きを見せる。何度見ても、生きているように見えてしまう。
その体は、クルリと一方向を向き、両手を突き出して顔をあげた。
そこで穂高は目を離した。
「問題ないです」
「ん」
向里はその肩越しに見た。
遺影と同じ顔の半透明の個人が、鬼気迫る顔付きで立ち上がり、ふわふわとした足取りで歩き出したのを。
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