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無駄な努力
「都子、可愛い!」
思い切ってお母さんの行きつけの美容院でバッサリショートに切ってもらった。それで、寝押ししてぴっちりラインの復活したスカートを履き、ついでにセーラーのスカーフの結び方にこだわってみた。
その朝、裕美が喜び勇んで褒めてくれた。同じ「カワイイ」という一言が都子のとは全然違って聴こえる。
「首のラインがきれいだからショートがカッコいいのよ、都子は。遠くまで見通せるみたいな凛々しさだよ。いいなあ」
……裕美のこの語彙の豊富さなのだ。都子とは段違いな。これだから裕美はカワイイ――で開店休業になってしまう都子。自分の頭をこつんとやる。
「裕美ってどうしてそんなに褒めるのが上手いの? あたし嬉しくて天に上っちゃいそうだよ」
結局、素直にそう言うしかできなかった。でも、裕美は笑ってくれた。「それ、褒めたのが嬉しくなる。こっちも幸せになる」って。
ああ裕美、その笑顔も素敵だな。そんな風になりたいな……。
でも。教室の隅、牛乳瓶の蓋で数人の男子とメンコをしていた氷室が、顔も上げずに一言。
「余計オトコみたいだな」
カッチーン。石板100個ください。
怒りが噴火直前まできてるのに、やっぱり何を言い返していいかわからない。
ただ恥ずかしい。悔しい。都子はもどかしくて唇を噛んだ。
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