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(02)白拍子2
そこにはひとりの白拍子が立っていた。
「どのようなご用件か、伺ってもよろしいでしょうか?」
艶やかでいて、少女のように無垢な美貌の白拍子に唖然とした三位中将の後ろから、今度は晴明がいざり出た。
「助けたまへ。我が名は桜と申す。手折られし桜なり」
「桜を手折るとは、それは……」
「手折られしはよし。過ぎしためしなり。いかでか、かのかたを助けたまへ」
年端もゆかぬ白拍子は、さし迫った表情で、懐から懐紙を晴明へと差し出した。開いてみると、人形の紙が一枚入っており、胸のところにある赤い五芒星が、墨が滴り落ちたように所々黒く染まっている。
「これは……」
「この墨の乾かぬほどに、かのかたを救ひたまへ」
「おい、「かのかた」とは誰のことだ? それを教えてくれないと、助けようがなかろう」
「三位中将どの。よいのです。……承りました。安心してお帰りください」
晴明が言うと、白拍子は少し笑んだあとで、木々のざわめきとともに、白く霞んで消えた。
「おい、晴明! 消えたぞ、あの白拍子! これは怪異か?」
「お静かに。せっかくですから、あなたの用件も承りましょう。話していただけますか?」
「ばれたか」
「ばればれのばれですよ。その袂のものを出してください」
「うむ」
三位中将が袂から取り出したのは、桜の枝に結ばれた一対の文だった。
「これは……」
文を外から見ると、所々墨が垂れたように黒く染まっている。晴明が開けようとすると、三位中将がつとそれを止めた。
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