(03)白拍子3

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(03)白拍子3

「これを読んだことはどうか内密にしてくれ、との依頼人の頼みなのだ。他言無用で頼む」  晴明が、止めるために取り出された扇を手で払い、黒く染まりつつある文をあらためた。幾つも折り目がついている谷側まで墨が通っており、読めるところがごく少なく、意味が通るところはさらに極少なく、三位中将の杞憂と言わざるを得なかった。  それでも一読すると、晴明は顔を上げた。 「そうですか。しかし、このまま誰かを使いにやるなり、あなたに言伝を託したところで、この件は終わりません。わたしが参ると主上にお伝えください」 「ばれたか」 「ばればれのばれですと申し上げました」 「いつがいい」  話が早くて助かると、三位中将は顔を明るくして問うた。 「明後日の……下弦の月が西へ沈む頃がよいでしょう」 「わかった。伝えよう。だが、晴明」  晴明から文を返されると、それを再び袂に仕舞い、三位中将は、ぎゅ、と眉を寄せた。 「危険なことではあるまいな?」  彼もまた、案じているのだ。主上の人に言えぬ相談事の数々を、預かってきた自負がそうさせている。  全く、健やかに育ったものだ、と郷愁に駆られ、晴明は眉を少し上げ、「問題ありません」と呟いた。 「あの方の身に降りかかる全ての禍は、わたしが取り払います。必ず」  晴明の自負を眦で吸い取るように見つめた三位中将は、「うむ」とひとつ頷いた。
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