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そして翌日、土曜日。
「……玉木さん、どうしたのかなあ」
すでに十時、なのに彼女が来ないのだ。こんなことは今までなくて、僕は念のためと交換していた彼女の電話番号に初めて電話をかけた。
呼び出し音が十回鳴ったところでようやく電話がつながった。
「あ、玉木さん? 何かあった?」
返事が、ない。
「玉木さん?」
「……その声、室井先輩ですか」
少し気だるげな男の声は知っている人間のものだった。
「九条、くん?」
「はい。九条です。おはようございます」
「お、おはよう」
混乱しながらも律儀に挨拶を返す自分に不思議な感覚を覚えた。
「玉木ちゃんならまだ寝てます。昨夜遅かったからもう少し寝かせてあげてください」
「……は?」
「じゃ」
プツン。
「……どういうことだ?」
ソファに座りこみ、スマホを握りしめ――僕は長い間放心した。みゃあ、とハナちゃんが僕の足にすり寄ってきて、それでようやく現実に戻ってこられた。
「あ、ハナちゃん。ごめんね。よしよし」
頭をなでてあげながらも、僕はかなり混乱していた。というか、結論は出ていた。ただその結論を受け入れられなくて、それで一人であがいていただけだった。
「……ハナちゃん。僕、失恋しちゃったみたいだ」
彼女が好きなのはハナちゃんで。彼女が会いたいのもハナちゃんで。わかっていた。わかっていたけれど……気づけば僕は彼女に強く惹かれていた。彼女のことは前からいいなと思っていたけれど、あの頃抱いていた感情はもっとふんわりとしたものだった。
だけどこの三か月、ハナちゃんを通して、僕は彼女のいろいろな顔、いろいろな面を知った。猫好きに悪い人はいないと思っていたけれど、彼女は僕の予想をはるかに超えた素敵な人だった。
でももう、彼女を好きでいるわけにはいかない。
「九条くんと玉木さん、お似合いだしなあ……」
かたや、爽やかなイケメン。かたや、強面のインドア派。僕に勝ち目なんてもとからなかったのだ。
「はは。なぐさめてくれるんだね」
膝に飛び乗り僕の頬を舐めだしたハナちゃんは本当にいい子だ。その優しさがたまらなく嬉しくて……苦しくて。
と、手の中にあるスマホが震えた。
『連絡遅くなってすみません。今日はファン活はお休みさせてください』
初めてもらった彼女からのメッセージは泣きたくなるほどそっけなくて――考えなくても指が動いていた。
『彼氏がいるのに他の男の家に行くのはよくないよ。たとえハナちゃんのファンだとしても』
『どういう意味ですか?』
『十時頃に電話したら九条くんが出たんだけど』
これに対する返事は来なかった。
だからそれこそが真実なのだと知った。
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