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「さすがにちょっと、甘過ぎるんじゃないの?お姉ちゃん。
慰謝料も養育費も、もっとふんだくってやれば良かったのに!」
実家に戻り、離婚に至った事の経緯をざっくり説明すると、妹は私以上に散々ぶち切れた後、呆れたように言った。
「アハハ、確かに。
でもホラ、彼にもこれからの生活があるワケだし。
それに私、仕事が出来る方じゃない?
離婚した後も会社は絶対に辞めないでくれってお義父さんに泣きつかれたから、続けるつもり。
だからお金にも、困んないしねぇ」
「離婚した元旦那の実家で、働き続けるとか。
……気まずくないの?」
へらへらと笑って答えると、心底ゲンナリした様子で聞かれた。
だけど悪いのは、私じゃない。
浮気をした、あの男の方なのだ。
尻尾を巻いて逃げ出す必要なんて、何処にある?
「あの人とは、社内で会う事もないし大丈夫!
身内だったからサービス価格で働いてたけど、今後は給料も上げて貰える予定だし」
笑顔のまま告げたら、彼女はやれやれとでも言いたげに、軽く左右に頭を振った。
そう。確かに一見すると、私の下した審判は、甘過ぎるモノに思えるだろう。
……だけど実際は、違う。
私は彼とその愛人に、最大級の罰を下してやったのだ。
法的に罰するのではなく、清く正しく美しい妻のまま離婚することで。
夫と子供を愛し、義両親想いで、家事も育児も、仕事までも完璧にこなす明るくて聡明な妻。
今後略奪者であるあの女は、事ある毎に私と比べられ、針のむしろに立たされる事になるだろう。
特にお義母さんは私に絶対的な信頼を寄せているし、孫の紗綾の事を溺愛してくれている。
なのに私と紗綾を裏切って捨て、若くて可愛いだけしか取り柄のない小娘を選んだのだと聞けば。
……そんなのどうなるかなんて、火を見るより明らかだ。
私は敢えて彼らと自分を繋ぐ縁の糸を、途切れさせなかった。
だってその方が、永く彼らを苦しめ続ける事が出来るから。
つまりこれは私の、正当な復讐なのだ。
まぁ単純に義両親や職場の人達の事が、大好きだっていうのもあるけれど。
『末永く、お幸せに』
明日の朝娘を迎えに行ったら、最後にこう言ってやろう。
きっと根は素直で純粋なあの人は、責められるよりもこんな風に、優しい言葉を掛けられる方が傷付くと思うから。
「『祝い』と『呪い』って文字、ちょっと似てるよね」
ククッと笑ってそう言うと、妹は怪訝そうに顔をしかめた。
「何よ?それ。……なんか、怖いんだけど」
だけどそれ以上何も答える事無く、真っ赤なワインがたっぷりと注がれたグラスを手に取ると、それを満月に向かって乾杯するみたいに掲げてそのまま一気に煽った。
【完】
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