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十二月後半、早めに実家に帰省することにした。
来年の春から地元で就職するので、学生最後の年末年始は久々に会う友達と満喫しようと思っていた。
それなのに、先日真希に指摘されたことをぐるぐると考えていて、全く心は浮き立たない。
おぼつかない気持ちのまま、田舎へ向かう特急電車に乗った。
優奈は窓際の指定席に座る。後から乗ってきた隣の席の若いビジネスマンは背面テーブルを出して、ノートパソコンのキーボードを叩きはじめた。
隣は女の人がよかったなと思い、その考えがまた利己的な気がして自分に嫌気が差した。
どうせ根は自己中だもんな、とささくれた気持ちになる。
この特急はけっこう揺れるのだ。しかも実家の最寄駅まで三時間。乗り物酔いしやすい優奈は、酔い止めも飲んでいたが、スマホは控えてぼんやりと物思いにふけることにした。
もう、ヒーローぶるのはやめようかな。
上から目線で手助けして、ありがとうって言われて、いい気分になるなんて。そんなの、ただの自己満足だし。
偽善者だなんて言われたくないし。
よし。誰かが困ってても素知らぬ顔でただの背景みたいな人になろう。決めた。
結論に至り、というよりも考えることを放棄して、優奈は悩みを解決した錯覚を味わった。
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