街中のヒーロー

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 十二月のある日、優奈は大学の食堂で昼食を食べながら、向かいに座る真希に不満を漏らしていた。  この日の一善が無駄骨に感じられていたのだ。 「さっき、鍵落とした人に拾ってあげたのに、奪い取るみたいにひったくられてお礼の一言もなかったんだよ!?ありえない」  真希は、大学からの付き合いで、四年生となった今となっては一番気心の知れた友人だ。  彼女はうどんをすすりながら、ふーんと気のない返事をしている。 「聞いてるー?」  晴れない気持ちがそのまま真希に向かってしまう。  そんな優奈を一瞥して、真希はおもむろに箸を置いた。 「ねえ、優奈。前から思ってたんだけど」 「……何?」  真希がこんな切り出し方をするときは、ズバズバと斬ってくることが多いので、身構えた。 「ヒーローになりたいっていう割に上から目線なの、どうにかならないの」 「え、上から?」 「助けてあげたんだからお礼を言えって、傲慢だよ。親切心じゃなくて、損得勘定と承認欲求と虚栄心の塊みたい」 「え、言い方ひどくない」  真希の遠慮のない物言いに、優奈は涙目になる。 「でも私だったら、そんな偽善者みたいな人に助けられても嬉しくない」  とどめを刺された。真希の言葉は核心を突いてクリティカルヒット。自分のアイデンティティがめった斬りにされたようだった。
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