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01.What the hell.
───ピンヒールを履いた瞬間、人は女になる。
これは誰の言葉だっただろうか?
だけど偉い誰かの言葉通り、たったの数センチ視界が高くなっただけで見える景色が変わり、世界と戦えるような気がする。
「げ、まさかお前も?」
目の前の男があからさまに顔をしかめた。
それに小さく舌打ちを飛ばしたが、会議室の中には今、私とこの男だけだ。
会議室の奥の窓は大通りに面しているため都会のビル群が見下ろせる。高層ビルに遮られながらも届く冬の日の光は淡く朧げだ。
オフィス街を行き交う人並みは年明けの忙しなさを感じさせる。個人主義でよそよそしい都会を生きる人は皆一様に逞しくて好感が持てた。
「札幌勤務がなんでいんのよ」
「は?年明けからまた本社戻ってきたんだわ人事広報見てねえのかよ」
「見たはずだけど忘れちゃったわ」
「若年性アルツハイマーっすか?」
「脳が不要な情報として判断して削除したのね」
「まじで可愛くねえな」
10人程度が囲むことの出来る大きなテーブルの一角にドカリと腰を降ろして踏ん反り返るこの男の名は、結城朱雀という。
新卒の時に同期で入社して以来5年目の付き合いになる朱雀とは、入社当時から馬が合わず顔を合わせればこうして稚拙極まりない口論になるから鬱陶しい。
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