10人が本棚に入れています
本棚に追加
二人で無言のまま、時間が流れていた。
(もう無理かな。ここまできっぱり言われたら仕方がないな)
「なあ、何で一緒にバンドやりたいと思ったの?」
彼はガラス窓の向こうをぼおと眺めながら尋ねてくる。
「えっ、理由はいっぱいあるけど……」
僕は戸惑いながら答える。
いっぱいありすぎてどこから言えばわからないけど。
流れるようなピアノの旋律も、ゆったりしたバラードのメロディーラインも、そして力強いリズムを刻むパーカッションもすごく心地よくて、ずっとこのまま聞いていたいなあと思わせる何かがあった。
だからこのままなくなってしまうのが、聴けなくなってしまうのがたまらなかったんだ。
「いつも思っていたんだけどね。なんで自分なのかなって。
自分の中では、全然すごくないし、他にもたくさんすごい人いる。だから、これから音楽やっていくにしても、多分プロにはなれないかなって思ってて。
亘はそうじゃないよね。今、本気でプロの現場でやりたいんでしょ?」
「うん、やるなら、今、とことんまでやりたい。本気でやりたい」
そう、僕がやりたいと思っているのはそこだったんだ。自分で言葉にしてやっと認識した。
今やりたいと思っているけど。でも、響はそうじゃないんだな。
「多分、そこの違いかなって。好きなことではあるけど、それだからこそ大切で中途半端な気持ちですることは絶対できないから」
ああ、僕たちは今は一緒にはできないのかな。
最初のコメントを投稿しよう!