卒業の日に

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「帰るよ」 と女子部員たちに囲まれている彼の隣に行って、準備室まで引っ張っていった。 準備室のドアを締めて、荷物とスネアドラムのハードケースを持って出ようとすると、まだ人だかりができている。 彼の腕を引っ張って、人だかりをぬってやっと外に出た。 「はあ、やっと出れた。ありがとう。それにしても、なんであんなに人いたんだろう?人酔いした」 彼が大きく息を吸って、ホッとした表情で言った。 僕は前をスタスタと歩いて、校門を出たところで振り返って、 「いつものところでいいか?」 と聞くと、彼は息を切らしながら頷いた。 いつも、帰りに寄り道しているファーストフード店に入ると、さっさと飲み物とポテトを買って奥の席に座る。 僕の前に荷物をおいて、「つかれた〜」と言いながら彼が座った。 「なんであんなに人いたんだろう。もう帰ったかと思ってたのに、弾き終わってびっくりした」 と彼がぼやきながら言う。 「全然、気が付かなかったの?あんなに人がいたのに」 「うん、ヘッドフォンしてたっていうのもあるけど、弾き納めだなって思ったらいろいろ思いついて弾いてた。あっそうそう、このスネアドラムどうしよう。誰かもらって言ってたんだけど、なかなかもらってくれる人がいなくて、まだきれいだから使えると思うんだけどね」 (ああ、やっぱり弾き納めだったんだ) 僕は意を決したように、切り出した。
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