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1 つきあいを再開する気はなかった
昔の恋人の噂を耳にした。彼女は二年間の結婚生活が破綻し、最近やっとその苦悩に満ちた日々から解放されはじめたと知人から聞いて、私は何となくホッとしていた。
夏祭りの商店街へ出かけたとき、私は人並みに見覚えある姿を見つけた。あの昔の恋人だった。あわててあとを追ったが、人並みにまぎれて彼女の姿を見失った。
彼女に会いたいと思った。過去に別れたとき、私は彼女とのすべての記録を破棄していたため、連絡手段が何も無かった。
勤め先で、彼女と同じ町内に住む女子社員がいたので、何気なく彼女の話をすると、その女子社員は快く彼女の連絡先を調べて教えてくれた。
数日後、私は数年ぶりに彼女と会った。いろいろ話していると、彼女が奇妙なことをいう。
「離婚して慰謝料を払ったから、もう家にお金はないよ。それに、あなたと私は学歴が違いすぎるよ」
彼女は、私が財産目当てで彼女に結婚を迫ろうとしていると、勘違いしたらしかった。私は彼女の変化に驚きを隠せなかった。
数年前の彼女は、
「夫婦で健康に暮していれば、いずれ幸せになれる。だから、愛する人と健康でともに暮らせればいい」
と話していた。
私は心のどこがで、彼女が昔のままであってほしいと思い、以前のままの彼女を期待していた。
しかし、その期待は、みごとに打ち砕かれた。
それ以後、私は彼女に会わなかった。おそらく彼女は、私が財産目当てで近づこうとしたと思っているだろう。
仮に、彼女からつきあうことを提案されても、過去の彼女とはちがう彼女とは、私はつきあいを再開する気はなかった。
(了)
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