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サクラ
「ねえ、知ってる? 綺麗な桜の下には、死体が埋まってるんですって」
桜吹雪の中にたたずむ彼女は、息を呑むほど、美しかった。肩までに切り揃えられた真っ黒な髪と、雪のように白い肌が、日の光を弾いて輝いていた。
セーラー服を着ていなければ、桜の木の精とでも思ってしまいそうだった。
こちらに気づいた彼女は、柔らかく微笑んだ。
「見ない顔ね。1年生かしら」
俺が頷くと、彼女は、私は3年。と破顔した。
「名前は?」
「……斉藤、ハルキ」
昔、まるで女子のような名前だと馬鹿にされてから、自分の名前は好きではない。
そして1週間前はチビだの童顔だの。子犬のようだと笑われ、その日の帰り道にすれ違った黒い芝犬がハルキと呼ばれていて、とても落ち込んだ。
けれど彼女はとても優しい目で、「綺麗な名前ね」と、言った。
「私は鈴井ナツキ。よろしくね」
ナツキ……ナツキ、か。
彼女に名前を呼ばれるのは、悪くないと思った。
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