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1 バイオテロ
学銀平国家主席はきつい口調で党の主席政策書記長に指示した。
「ウィルスは完成したか?
今までのような、モンゴロイドやネグロイドに感染する物ではいかんのだ!
あくまで、感染対象はコーカソイドだけでいい!
早く完成させろ!
ウィルス感染が収束していない欧米にばらまけ!現在のウィルスが変異した、第二波、第三波の感染だと思わせろ!
武漢のように、施設からウィルスが外部へ拡がるようなヘマをするな。
前回はウィルスを発見した医師を処分したが、これからはウィルス管理に失敗した研究員は全て処刑しろ。理由は今までように、ウィルス感染による死亡と発表すればいい。
これ以上のヘマは許さんぞ!
WHOを言いくるめるのに、どれほどの苦労をしたか、お前も知っているだろう」
「わかりました・・・」
主席政策書記長は国家主席にあいさつすると、そそくさと国家主席執務室から出ていった。
『新型ウィルスはコーカソイドだけに感染する物ではない。
ネグロイドにもモンゴロイドにも感染するが重症化はしない。
しかし、ウィルスはコーカソイドの遺伝子と親和性が良いため、宿主であるコーカソイドは重症化して死に至る。
新型ウィルスは遺伝子工学を利用したコーカソイド専用のバイオ兵器だ。
国家間の往来が禁止されている今、渡り鳥に新型ウィルスを寄生させて放つ。
渡り鳥に寄生した新型ウィルスは鳥から人へ感染し、世界に拡がる。
その後は、欧米諸国の衰退と、我が国の援助による第三世界の発展だ。
世界の覇権は我が国のものに、我が国家のものに、そして我が党のものになる・・・』
学銀平国家主席はそこまで構想を拡げ、グラスに手を伸ばした。
グラスには主席政策書記長が持ってきた年代物の老酒が満たされている。
グラスを持つと学銀平国家主席は老酒を飲んだ。
『うまい酒だ。主席政策書記長が手土産を持参するとは珍しい・・・』
そう思うと同時に、国家主席の気分が悪くなった。
三日後。
国家主席はウィルス感染のために亡くなった。
国家主席の一族や国家主席と親しい党の幹部たちもウィルス感染で亡くなった。
主席政策書記長はコーカソイドだけに感染するウィルスの開発を命じられていた。
彼は党幹部がウィルスに感染しないためにと言って、党幹部の遺伝子情報を入手し、党幹部だけが感染する新型ウィルスを開発していた。
主席政策書記長は民主化運動の黒幕だった。 (了)
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