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初夜
「桃よ」
「なあに?」
「抱いてやろうか」
桃は嬉しそうに笑い、静流に抱き着いた。普段は鬱陶しいからべたべたするなと怒られるのに、静流はそっと桃を抱き返す。
「ふふっ、どういう風の吹き回し?」
「・・・そうじゃねえ」
「え?」
「こういう意味じゃねえ」
静流は桃の頬に手を添え、そっと唇を吸った。桃の身体がぴくりとはねる。
「口、開けな」
囁くようにそう言うと、桃は素直に口を開けた。静流の舌が、桃の舌と絡まる。くちゅくちゅといやらしい水音が響いた。
「どうして・・・」
「夫婦だからさ」
「あんた、身体が追い付かないって言ってたじゃない」
「誰かさんのおかげで身体の調子がすこぶる良くてな。十年は若返った気分だ」
「な、なら・・・」
桃の声は今にも消え入りそうなほどか細く震えていた。
「優しくしてよ。初めてだから」
「・・・白湯持ってこい。薬を飲む」
「薬?」
「お前のためにわざわざ取り寄せたんだよ」
これは静流の嘘だったが、桃は喜んだ。
「薬飲んで、飯食って、風呂入って歯ぁ磨いて、話はそれからだ」
「わかった」
桃は味のしない飯を食い、念入りに身体を清め、そうこうしているうちに二時間が経った。裸の桃が布団に寝転ぶ。その上に裸の静流が覆い被さった。男根はそそり立っている。枯れ枝のような手が桃の身体を撫で、敏感な部分を指で弾き、抓る。桃は身体をびくびく震わせて反応している。そんな桃の様子に、静流は内心ほっとしていた。女を抱いたのは、何十年も前の話だったからだ。手探りで桃を喜ばせようとする静流。初心な桃は漏れる声を噛み殺し、切なそうに呻いた。
「いや・・・」
桃が泣き出しそうな声で言う。
「見ないで・・・」
静流の腹の奥底に、加虐心に似た熱い欲望が渦を巻く。
「私を、見ないで」
「わかった」
手の平と指での愛撫から、舌と歯の愛撫に変わる。舐め、吸い、噛みつき、桃は浅い呼吸を繰り返す。静流は桃の陰部に顔を寄せ、舌で舐めた。びくんっと桃の身体が大きく跳ね、こらえきれない嬌声が零れる。
「や、やめて! そんなことしないで・・・。見てられないよ・・・」
「桃、一度気を遣れ。指、入れるぞ」
「そんな、急に・・・」
静流は陰部の肉の蕾を唇で吸うと、穴に指を、ゆっくり挿入した。本番で痛い思いをさせないように、丁寧に丁寧に穴を広げていく。
「う、う・・・。も、もう・・・」
桃が身体を仰け反らせる。静流の身体も暴走しそうなほどの熱を帯びていた。桃の痴態に興奮しているのだ。
「静流さん・・・」
「入れるぞ。捕まれ」
静流の熱量が桃の体内に挿入され、桃は初めての悦びに顔をとろけさせた。静流の身体にも電流のような快感がほとばしる。
それからの二人は人でもなく、物の怪でもなかった。ただの獣だ。性欲を満たすためだけの獣となり、何もかもを捨ててまぐわいあった。
「桃」
快楽に身体が麻痺して動けない桃の唇を吸い、静流は言った。
「愛してる」
とろとろの意識の中、桃は笑った。
「静流さん」
自分を抱きしめる静流の耳元で、桃も囁いた。
「愛してます」
「・・・くっ、ふふふ」
「はは、あははっ」
ぐちゃぐちゃになりながら二人は笑い合った。夫婦の初めての契りに、部屋に差し込む朝日が終わりを告げる。
それからの二人は、ふとした瞬間に唇を重ねるようになった。以前なら『べたべたするな』と桃を振り払っていた静流が、桃が困惑するほど身体を引っ付けるようになった。肩を抱いたり、髪を弄ったり、抱きしめたり。桃は少し恥じらいながらも、その変化を心地良く受け入れた。
二人は月に一度、肌を重ねた。桃を少しでも長く感じるために、静流は煙草も酒もやめた。
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