1 感動的な絵画

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1 感動的な絵画

 描写が細かいとか粗いにかかわらず、描かれた画は心がこもっていると、見る者に感銘を与える。そう気づいたのは、ある夫婦の油彩画を見たときだった。  妻君はちょっと名の知れた画家で、夫君は自分の描きたい絵を趣味程度に描いていた。  ある日、夫妻の家を訪れた私に、妻君が風景の油彩画を見せてくれた。次期展覧会に出品するという。アトリエには、同じような風景を描いた油彩画があった。なんとなく心を引かれる画で私は気に入った。その旨妻君に伝えると、夫が描いた物で、たいした物ではないと妻君は言った。  しかし、妻君の画を見ると、私は頭痛がしてきた。妻君の画は技巧に走り、画を見る者たちから良く見られたいという思いがあふれ、風景を愛でる雰囲気が何一つ感じられず、写真のようなその風景画に、私は殺伐とした印象しか受けなかった。  ある県の小学生の写生コンクールの入選作品展覧会を、県の美術館で見たことがあった。小学生が描いた牛や蜂など生き物の写生を見たとき、描かれた生き物の輪郭は写真に撮った場合とちがい、子どもたちが感銘を受けた部位が、形も色も強調されていた。生き物として形は整っていなかったが、とても印象的で躍動感にあふれ、何を描いたか、すぐわかった。  それにくらべ、私の知りあいの画家の油彩画には、子どもたちが描いたような深い感動がなかった。躍動感が感じられず、先達たちの画風を真似た印象が強かった。私はなぜか、名の知れた画家なのに残念に思っ(了) (了)
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