1 感動的な絵画

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1 感動的な絵画

 感動的な絵画  描写が細かいとか粗いにかかわらず、描かれた絵画に作者の思いがこもっていると、見る者に感銘を与える。そう気づいたのは、ある夫婦の油彩画を見たときだった。  妻はちょっと名の知れた画家で、夫は自分の描きたい絵を趣味程度に描いていた。  ある日、剪定を依頼されて夫妻の家を訪れた私に、妻が風景画を見せてくれた。次期展覧会に出品するという。アトリエには、同じような風景を描いた油彩画があった。なんとなく心を引かれる画で私は気に入った。その旨を妻に伝えると、夫が描いた物で、たいした物ではないと妻は言った。  しかし、妻の画を見ると、私は頭痛がしてきた。妻の画は技巧に走り、画を見る者たちから良く見られたいという思いが溢れているのを感じた。風景を愛でる雰囲気が何一つ感じられず、写真のようなその風景画に、私は殺伐とした印象しか受けなかった。  剪定した樹木を見ると、樹木の大小にかかわらず、剪定しました、という樹木を良く見る。しかし、施主はこのような剪定を好んでいるか否か疑問だ。あからさまに枝が切られた木口を見せている様は実に不可解だ。庭や宅地の限られた土地に生えている樹木は自由気ままに生育すると、住宅のじゃまになるため、仕方なく剪定してその場におさまるようにするのだが、必要以上に切り刻まなくても、自然の山々に生える樹木の如く形は維持できる。あえて、丸くしたり四角くする必要はない気がする。  そう思って油彩画を見ると、夫が描いた絵の方が妻が描いた絵より自然だ。  ある県の小学生の写生コンクールの入選作品展覧会を、県の美術館で見たことがあった。小学生が描いた牛や蜂など生き物の写生を見たとき、描かれた生き物の輪郭は写真に撮った場合とちがい、子どもたちが感銘を受けた部位が、形も色も強調されていた。生き物として形は整っていなかったが、とても印象的で躍動感にあふれ、何を描いたか、すぐわかった。  それにくらべ、私の知りあいの画家の油彩画には、子どもたちが描いたような深い感動がなかった。躍動感が感じられず、先達たちの画風を真似た印象が強かった。私はなぜか、名の知れた画家なのに残念に思った。 (了)
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