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私は驚いて焦った。まさか抜けてしまうとは思っていなかったのだ。
そして、そんな時に、祖母が部屋の中に入ってきた。
即座に祖母は、トラのヒゲが抜けているのを見つけた。
そして、
「猫のヒゲはただでさえも大事なもので、ましてやトラは片目が見えないのに」
「しかも、一番長いヒゲじゃないの」
と、私を叱った。
私は嘘をついた。
このヒゲは私が抜いたのではなく、自然に抜けていたのだと嘘の説明をすると、祖母は「そうだったの」と言って、私を叱るのをやめた。
その間、トラはずっと黙っていた。
私がヒゲを引っ張っている間も、ヒゲが抜けた時も、祖母が私を叱っている間も、表情ひとつ変えず(多分)、そこに座ったままだった。
自分がやっておいてこういうことを言うのもなんだが、あの時のトラの態度は一体何だったのだろう。
体調が悪くて動けなかったということはないと思う。
「気にするな」という、猫なりの優しさなどでもないだろう。なんとなくだが。
本当に我関せずの無関心だった…のだろうか??
結局、この片目が不自由なトラが、祖父母が飼った最後の猫となった。
ただ私は、トラの晩年近くの姿を、あまりというか、ほとんど見ていない。
その頃は高校生か、あるいはもっと上の年齢で、祖父母のところに滅多に遊びに行かなくなっていたのだ。
本当に、不義理な孫である。
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