4.母の実家の猫の思い出 その2

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 私は驚いて焦った。まさか抜けてしまうとは思っていなかったのだ。  そして、そんな時に、祖母が部屋の中に入ってきた。  即座に祖母は、トラのヒゲが抜けているのを見つけた。  そして、 「猫のヒゲはただでさえも大事なもので、ましてやトラは片目が見えないのに」 「しかも、一番長いヒゲじゃないの」  と、私を叱った。  私は嘘をついた。  このヒゲは私が抜いたのではなく、自然に抜けていたのだと嘘の説明をすると、祖母は「そうだったの」と言って、私を叱るのをやめた。  その間、トラはずっと黙っていた。  私がヒゲを引っ張っている間も、ヒゲが抜けた時も、祖母が私を叱っている間も、表情ひとつ変えず(多分)、そこに座ったままだった。  自分がやっておいてこういうことを言うのもなんだが、あの時のトラの態度は一体何だったのだろう。  体調が悪くて動けなかったということはないと思う。 「気にするな」という、猫なりの優しさなどでもないだろう。なんとなくだが。  本当に我関せずの無関心だった…のだろうか??  結局、この片目が不自由なトラが、祖父母が飼った最後の猫となった。  ただ私は、トラの晩年近くの姿を、あまりというか、ほとんど見ていない。  その頃は高校生か、あるいはもっと上の年齢で、祖父母のところに滅多に遊びに行かなくなっていたのだ。  本当に、不義理な孫である。
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