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桜は咲くから美しい。
じゃあ、咲かない桜には何の価値もないのだろうか。
「そんなことないよね」
そう呟いてみたものの、自信が持てなかった。
こうして毎日水をやっているのは、いつか花を咲かせるその時のため。
花が咲かないと分かっていて尚、私は水をやれるだろうか。
いつだって、人は何かを期待して生きている。
「何か言った?」
彼がこちらに目を向ける。
「ううん、もうすぐ卒業だなって」
「そうだな」
もうすぐ、卒業なんだよなあ。
枝を見上げて彼はそう呟いた。
その言葉で、私は終わりが訪れていることをさらに強く実感する。
その桜の木は、未だつぼみすらつけていない。
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