某家守近が竹馬の友、斉時(なりとき)のこと

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「ひょぉえっっっーーーーー!!!」 朝を迎えた守近の屋敷に、幼子(さな)の、奇っ怪な叫び声が、響き渡った。 身支度を整えたばかりの守近は、徳子(なりこ)(へや)へ、駆け込んだ。 「な、何事ですかっ!」 「ああ!守近さま!」 徳子もなにやら、動揺している。 女房達は、一斉に沙奈(さな)の元へと向かって行った。 「……(たちばな)が、顔を見せぬものですから、沙奈が様子を伺いに……」 「で、この騒ぎなのですね?」 守近の問いに、徳子は、頷いた。 何しろ徳子は、身重。何かあっては困ると、守近は、怯える徳子を落ち着かせる為、抱き締めてやる。 「まあ、中堅処の女房といえども、寝坊する事もあるでしょう。橘も、きっと……」 と、守近が言い終えるか否か、 ひゃあーーー! あれぇーーー! 女房達の叫びが響く。 「おい!医師(くすし)を!」 追うように、斉時(なりとき)の声が迫った。 ただ事ではない様子に、守近と徳子は、顔を見合わせる。 ドタドタと仰々しい足音とともに、怒鳴るような斉時の声がした。 「ああ、守近!早よう医師(くすし)を呼べ!皆、目を回して倒れておるぞ!」 現れた斉時を見て、徳子は、ひっと、声を挙げ、守近の腕の中へ崩れ混む。 「な、な、斉時!!!お前、何を、何を!」 「あー、何って、その、昨夜、橘に世話になってなぁ。すまん。つい……。いや、それよりも、医師(くすし)だ!」 どうやら、女房、橘と密な夜を過ごした様だが、寝ぼけているのか、なんなのか。斉時ときたら、情事の後の、一糸纏(いっしまと)わぬ姿で闊歩(かっぽ)しているのだ。それに、本人が気付いていないとは──。 「おおっ?!徳子様まで!守近!私が、医師(くすし)を呼んでこよう!」 斉時は駆け出した。 「い、いや、ちょと、待て!だ、誰ぞ!誰ぞ!斉時を止めろ!」 おおっー! うわぁー! ぎゃあーー! 悲鳴が次々挙がっていく……。 ああ、物忌(ものいみ)(けが)れ、否、斉時という男、恐るべし──。
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